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アニメ産業研究

 「天職割引の問題」に続き、アニメ産業の費用構造について考えてみる。待遇の問題というのは、費用の問題として扱ったほうその制限要因が分かりやすいからだ。

 ただ引用してきただけだけれど、1)労働政策研究・研修機構(JIL)の報告、2)久保雅一氏の見解、そして3)石川光久氏の選択、の順に読むと業界の方向性が暗示されているかのように思う。

 リスクとリターンの関係を鑑みれば、制作資金を自力調達できないことが作品収益の配分から制作会社を除外していると見える。反面、放送局をはじめとする流通業者が作品の商業的失敗のリスクを負うことで、派生収益を含む収益配分を得ている。久保氏が信託業法に言及するのは、まさに製作資金の自力調達によるリスク/リターンの内在化ということなのだろう。

 久保氏の発言で見逃せないのが垂直統合という単語で、これは放送局ないし出版社、あるいは大手制作会社によるアニメ制作会社の買収という意味に捉えるのが自然だろう。これもひとつの収益内在化の形として十分にあり得ると思うんだけれど、パワー・バランスを変えるわけではないから制作者の立場を強化するとはちょっと想像しがたい。

 流通費用に関する同氏の言及は、こういう風に分解することでやはりリスク/リターンの問題に戻りはしないだろうか。つまり、流通費用がリスクの転移を反映するとしたら、ことは制作会社がどこまで作品の商業的失敗のリスクを負うのか、という点に帰結するように思う。

 「イノセンス」の例は、作品流通の主導権を制作側が掌握した好例のように見える。年収1,000万円のアニメーターも擁するというプロダクション・アイジー社が具体的にどのような戦術を展開しているのだろうか。そして、JILの報告のように時代の趨勢ともいえるデジタル化が中小制作会社の経営を逼迫していくとすれば、合従連衡の業界再編は不可避のように思える。この再編があるとすれば、誰がその主導権を握るのだろうか。

 そして、この一連のエントリーの発端に戻ろう。これから起こっていく変化は、絵を描く歓びをどのように勇気づけていくのだろうか。注意深く観察したい。

労働政策研究・研修機構「コンテンツ産業の雇用と人材育成 ― アニメーション産業実態調査 ―」

 業界全体の構造的な問題については(第2-2-3表参照)、全ての企業が、①広

告代理店、放送局等の流通業者による制作会社の下請け化と適正価格を下回る制作費、②著

作権の流通業者(あるいは大手製作・制作企業)による独占、③契約書を取り交わす慣習が

ないことなどを挙げている。とりわけ資金力のない中堅以下の制作会社では、著作権による

2 次的な売上はもとより、委託制作費という1 次的な収入の低さが深刻となっている。こう

したことから、実際の動画単価が本来の適正価格の1/3(B 社)とする指摘もあり、その

結果として、④新人の報酬が低く、離職率が高いことから、特に作品の質を左右する優秀な

原画担当者が育ちにくいとの問題も挙げられている。また、制作費不足から生じる別の問題

として、⑤デジタル化に伴う設備投資コストの負担が中小制作会社の経営を圧迫しているこ

とも指摘されている。

経済産業研究所 日本製アニメとマンガの国際戦略

(スピーカー: 小学館キャラクター事業センター センター長 久保雅一)

 アニメプロダクションの従業員のなかには年収150万円というレベルの人たちもいるので、彼らが創作活動に見合った収入を得るためには現状のビジネスモデルだけでは不十分です。垂直統合をしながらも今後は横に市場を広げていくのではないでしょうか。そういう意味では、信託業法や下請法の改正など、法制面でのサポートが整いつつあるのではないかと思います。

(略)

しかし日本では、中間的に抜かれるディストリビューションのコストが高すぎるというのが大きな問題となっており、それは変わっていく必要があります。

2004年4月28日 朝日新聞

アニメ界の「寅」が下請けビジネス変えた

プロダクション・アイジー社長 石川 光久さん(45歳)

 ――(引用者注:「イノセンス」の)配給と宣伝はジブリの鈴木さんに頼みました。

 石川 アニメ業界は作品ができれば満足して、売ることまで考えない。自分も失敗しない方法を考えるのは得意だけど、どうすればヒットするかのノウハウがない。だったら人に任せてしまえ、とお願いしました。

 ――よく、他社作品の手助けに応じましたね。

 石川 最初のころ、「片道の燃料で米国に乗り込むつもり」と話したら、怒られた。「だったら帰りの燃料はおれに任せろ」とね。海外戦略を中心にしたいと話したら、「国内で12万人しか見ていない映画の続編が海外で売れるか。まず国内を固めろ」とさらに怒られた。

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