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シルク・ド・ソレイユ / ラブ

 ラス・ベガス3日目の夜は、シルク・ド・ソレイユ(Cirque Du Soleil)の「ラブ(Love)」を観る。

 ビートルズの音楽がふんだんに使われていて、ゆえに、シルク・ド・ソレイユの舞台にしては音楽的にも視覚的にもポップなものだった。もちろん、そのポップさは、必ずしも彼らの幻想性と矛盾しない。とはいえ、僕らがビートルズ自身や彼らの生きた時代背景についてリアルな情報をある程度知っているだけに、シルク・ド・ソレイユ作品のなかでは別格に現世的だったと思う。

 それは例えば、「カ(Ka)」における戦いがどこか遠い世界の戦いである一方、「ラブ」ではナチス・ドイツによるリバプールの空襲が描かれる。おそらく、こういった具体性は不利に働くのではないか、と僕は危惧した。多少なりとも知っている、あるいは、その知識の断片から想像できるもの、が舞台で表現されたときに違和感を与ええるだろうから。

 けれども、それは杞憂だった。「カ」の「どこか遠い世界の戦い」が、それでも、真に迫った描写になるのは出来事をとりまく雰囲気を描く彼らの演技力の賜物だ。同様に、「ラブ」の叙事的な要素もそのハードルが気にならないのは、やはり、それらの出来事をとりまく雰囲気や気分といったものを、彼らは実に精緻に描くからだ。印象派の絵画が、写真よりも克明に情景を描きうるように。

 物語の構成も美しかった。親子の愛が描かれ、男女の愛が描かれ、そして共同体の愛が描かれる。それが幼くして母親をなくしたジョン・レノンの人生にも重なり、最後の大団円にはホロリとさせられてしまう。

 あとで、一緒に感激したピアニストと話をしたら、いくつかの興味深い指摘をくれた。まず、ある曲のドラムを別の曲のドラム部分と入れ替えてミックスした部分がいくつもあって、それが音楽的に成功しているものあればそうでないものもあるけれど、面白かったという点。次に、交通事故のシーンでフォルクスワーゲン「ビートル」(僕の昔の愛車だ)がバラバラになる場面があるけれど、これはビートルズの解散を暗示しているという点。なるほどなるほど。

 シルク・ド・ソレイユには、やっぱり、浮世離れした夢の世界を舞台を見せてほしい、というのが僕の変わらぬ思いだ。その点からすれば、やっぱり、「ラブ」は異色ではある。一方で、たとえばビートルズくらい、描きがいのある世界観であれば、ときどきはこんな風に現世的なテーマで、新しい地平も観てみたい、と思った。はじめての人には敢えて勧めないけれど、何度目かのシルク・ド・ソレイユにはいいアクセントだと思う。

 

 

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