カジノで勝つのは誰しも抱く夢で、その夢は幾度破られてもなお、カジノに一歩足を踏み入れるたびに鎌首をもたげる。高校生のときにオーストラリアのゴールド・コーストで挑んだのを皮切りに、アメリカのラス・ベガスとリノ、フランスのジュアン・レ・パン、とひたすら苦い教訓を重ねている。だから、近頃は「勝ち負けじゃなくてゲーム自体を楽しめればいいじゃないか」なんて大人びた考えを持つようになった。
でも、それは本音じゃない。もちろん。本音だった試しすらない。本音は勝ちたいに決まっているし、勝つためにカジノに行くんじゃんか。そして今回、ラス・ベガスで僕は恐るべきパートナーたちを得て、ついにカジノで勝つ。しかも運だけじゃなく、戦略(と運)によって。リターン・オブ・ザ・悪ガキ魂。
ふたりの友人は、ブラックジャックでディーラーが配ったカードを、ある程度覚えることができて、ゆえに、残りのカードの傾向を判断することができる。カードがシャッフルされたところでゼロからはじめ、A・J・Q・Kといったハイ・カードが出現したらマイナス1、2~6のロー・カードが出現したらプラス1、という具合に数えていく。
その数が正で大きければ、ハイ・カードが多く残っていて、ゆえにブラックジャックなど高得点を得る確立が高く、多くの金額を賭ければ良いことになる。もちろん、残りのカードが少なければ少ないほど、その的中率は高くなる。まぁ、書けばなるほどという感じだけど、これを適度に会話しながら、また、そもそも戦略に疎い僕に「ヒット」だの「ステイ」だのと指示を出しながらやるのは離れ業だ。
初日、僕は彼らと並んでテーブルにつき、友人の出すサイン(これは秘密にしておこう)に従って、25ドルから400ドルまで賭け金を調整した。もちろん、その前に、自分のカードとディーラーのカードの組み合わせで、いかにヒット/ステイ/ダブル/スプリットと対応すべきかについて、みっちり研修を受ける。
その結果、僕たちは40・50分ほどで1,000ドルちょっと儲けて、これ以上続けるとカジノに見つかって追い出される、ということで引き上げた。カード・カウンティングはもちろん違法ではないけれど、当然カジノは嫌がるし、カジノは私有地だから出て行けと言われたら、それに従うしかないそうだ。そんな訳で、僕の友人は、ラス・ベガスのいくつかのカジノで出入禁止ないしはブラックジャック禁止、という栄誉に与っている。
初めての僕は「出資」をしていないから、仮に負けたとしても損失を負担することもなかったのだけど、勝ちを受け取ることもできない。これはまさしく資本と経営の分離で、僕は気楽なサラリーマンとして新しい世界を満喫する。さて、これに味をしめた僕は、翌日以降は、夜は観劇、昼(ないし深夜)は共同事業者としてブラックジャック、という極度にラス・ベガス的な生活をはじめる。
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