M氏に連れられてサン・トノーレ通り(Rue Saint-Honore)にあるブラッスリー、ル・カスティリオン(Le Castiglione)で昼食。気取らない雰囲気と郷土的な料理にこの店の魅力があることは間違いないのだけれど、素早い給仕も忘れてはならない。僕はかつて、フランス料理はやたらと時間がかかるから仕事上の会食では避けるべきだ、と習った。けれどこの店ならその心配がなく、そのせいもあってか、店内はスーツ姿のビジネス・ランチ客ですぐに満席になった。
まず、前菜にシェーヴルの包み焼きを頼む。ヤギのチーズは表面が香ばしく焼き上げられていて、それでいて、中身はそのままにもとのコクを残している。M氏の言うとおり、シェーヴル独特の臭みが苦手な人でも、これなら食べやすいかもしれない。とはいえ、「これなら食べやすい」という形容はヤギには失礼千万な話で、誰だって無理に食べる必要なんてない。放っておいても僕が食べる。
主菜は、本日のおすすめのうち、白身魚のスープ。鱈や鮭が、キャセロールのなかで、さやえんどうや人参、じゃがいもと一緒にじっくり煮込まれている。スープにはバターとクリームが効いていて、同席したフランス人によると、これはノルマンディー地方の料理らしい。ちょうど誰かが、ノルマンディーの魚は、強い海流に鍛えられているのと、日本のように海藻を人間に奪われないので、日本の魚より旨い、と言っていたのを思い出した。(そうだ、それは日本航空の機内誌だった。)
このメンバーのなかで、僕は「痩せの大食い」ということになっている――というべきか、そうだとバレている、というべきか――。ともあれ、みんなの料理が少しずつ僕の皿に集まる。そこで期せずしてこの店の豊かな郷土色に触れることになる。ひとつはタルタル・ステーキで、これは典型的なパリ料理なんだそうだ。もうひとつは牛のホホ肉の煮込みで、これはもちろんブルゴーニュ料理だ。鮭のグリルは、どうやらこちらもノルマンディー的、ということになるらしい。
ワインはサンセール(Sancerre)の軽い赤を軽く。脇役ながら印象的だったのは塩バターで、塩味が効いていて野趣のある骨太な後味のせいで、ついつい次のパンに手を伸ばしてしまう。ときに不健康なくらいの健康指向に対して、21世紀のメガマックで抗議するのもいいけれど、塩バターという懐古的な揺り戻しをかけてみるのもいいかも知れない。塩バタチーズだんだんだーん♪
ところで席上では発泡水の話になって、フランス人は食事中にペリエを飲まない、と聞いた。食事とともに飲むにはペリエは炭酸が強すぎるそうで、こういう場合はバドワ(Badoit)が主流なのだそうだ。確かに、食堂でガス入りの水を頼んでペリエが出てきた記憶がなくて、遅れ馳せながら目から鱗。ちなみに、ペリエは「食事向けの」弱炭酸版を出したそうだけど、主流になるには至っていない様子。
最後はスペインのカタルーニャ風プリンを勧められたけれど、夜もフレンチなので大人になってライチのソルベで軟着陸。そしてこのランチ、これでも小一時間でまとまったのは、やっぱり、テキパキとしたこの店の采配ならでは、じゃないかな。デキる。
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