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ブノワ (表参道)

 観劇の後、上野から表参道に移動してブノワで夕食をとる。田舎料理を売りにする一方でこの界隈のカフェのような都会的な店内は良くも悪くも青山的、それでいて値段は極めて良心的。なかなか使い勝手のいいミシュラン1つ星…のように思えたけれど、チーズに髪の毛が落ちていたのは断じて許せない! と言いながら、ほとぼりが冷めたらまた行ってしまいそうな自分が憎い。

 グループ・アラン・デュカスの店としては「伝統的料理をコンセプトにしたレストラン」という分類に属していて、これは昨年パリで連れて行ってもらった「オー・リヨネ」と同じだ。けれど、オー・リヨネが木目のやや重厚な内装だったのと好対照で、この青山のブノワはむしろ家具屋のフランフランみたいなカジュアルな材料で組み立てられている。

『ブノワ』の「ビストロ精神」のエッセンスを伝えるため、アラン・デュカスはインテリアデザイナーとしても名高いフランス人建築家ピエール=イヴ・ロション氏をディレクターに起用しました。

ブノワについて

 椅子は軽いアルミニウム製だった。僕はそれに気づいたとき、スターバックスの軒先で食事をさせられるような、客として軽んじられているような不愉快な気分になったけれど、そこはブノワ流「ビストロ精神」の軽妙洒脱と理解すべきなんだろう。とはいえ、説明や解釈を要求する内装は、たとえばビジネス・ディナーには不向きだ。
 ところが、メニューを開いて、アルミニウムの椅子の印象もすこし変わった。プリフィクスが6,500円からというのはかなり良心的だし、意欲的だと思う。店が「ビストロ精神」と呼んでいるであろう、このしみやすさ調性として考えれば、カフェのような椅子も一応は理解ができる。
 ここから先は好みの世界で、たえばジビエを別にべたいのか、通にべたいのか、という副詞の話だ。この店は果敢にも後者に備えているような印象を受ける。特に楽しかったのはワインの豊富さで、価格のレンジを抑えつつ一方で地理的にはきめ細かく広がっていて、これは店の、まるでフランス政府観光局を自任するかのような、郷土愛的サーヴィス精神なんじゃないかな。
 ともあれ、仔牛のランプ肉とリ・ド・ヴォーのロティはジューシーで、成長すると消えてしまう「リ・ド・ヴォー」という内臓のことも習ったりして、レストランに物産展的要素を求めてしまう僕としては楽しい限り。前菜のエスカルゴもそうだったけれど、この現代的な浮薄ですらある内装とは対照的に、多少軽めにはなっているようだけど、料理は全般的に保守的でなんだかホッとさせられる。
 だから、最後の最後のチーズはとても残念だった。まず、出てくるのが遅すぎて、なにかと聞けば付け合わせのパンをトーストしているとか。これはさすがに本末転倒だと思う。食後のチーズにパンとサラダは蛇足だ。そして、個別の不運とは言え、チーズに髪の毛が落ちていたのは決定的で、パンやサラダがいよいよ空々しく映る。お詫びも値引きも、もちろん、落胆の埋め合わせにはならない。
 そうは言っても、気安さと伝統がよく釣り合った店だったし、また来てみたい気がないでもない。まだ複雑な心境だけれど、ほとぼりが冷めたら舞い戻ってしまうんじゃないか、という犬も食わない夫婦喧嘩的な後味。

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