- 2008-04-20 (日) 23:34
- 学ぶ

慶大DMC機構、think C、そしてコンテンツ政策研究会(実は僕も末席を汚している)共催のフォーラム「著作権には何が欠けているのか」に参加。特に刺激的だったのは”編集家”竹熊氏によるマンガ制作の現場からの指摘と、北大の田村教授による「知的財産権の正当化根拠」についての言及で、実務と哲学の両面から著作権法制をダイナミックに考える上質の時間だった。
登壇者は竹熊健太郎(文筆家、編集者)、田村善之(北海道大学大学院法学研究科教授)、野口祐子(弁護士、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン専務理事)、山形浩生(評論家)の各氏。そして骨董通り法律事務所の福井健策氏がモデレーターとして登場。
竹熊氏の指摘は非常に具体的だ。漫画家の末次由紀氏が、作中に別の漫画家である井上雄彦氏の作品の一部をトレースしていたのではないかという疑惑と、そしてさらに、その井上雄彦氏もまた、他人の写真をトレースしていたのではないかという疑惑を紹介。席上で次のサイトが紹介された。
スラムダンクを参考?疑惑 via kwout
これらの疑惑を紹介したうえで、竹熊氏は、漫画制作の現場で写真のトレースは一般的な手法であって、漫画家の佐々木倫子氏のように独自に参考用写真を撮影するケースもあるものの、現実的にはそのような撮影余力をもつ漫画家は少ないと指摘。本件については氏のブログに詳しい。
さらに竹熊氏は、「出版社や漫画家は基本的に裁判を起こすことを避ける」と指摘。先に挙げた盗作騒動についても「出版社が気をまわして女性漫画家の作品を絶版としたが、盗作された本人である男性漫画家は裁判を起こすどころかクレームもつけていない。良し悪しはともかく、構図を参考にすることやトレースの活用が漫画界の発展を支えてきたことも事実。著作権などの法律論とは別の常識で動いている部分が現実にある」とした。
漫画制作におけるトレースの問題はともかくとして、著作権制度が新たな創作を委縮させる結果になってはその趣旨に反する。法制あるいは/および竹熊氏の提唱するような共用写真ライブラリーの創設などで、現場が創作に専念できるリーガルな安全性は一日も早く担保されるべきだろう。著作権のグレーゾーンは、野口弁護士の指摘通り、長期的には創作を抑制することになるだろう。
野口弁護士が「高尚な議論」と紹介した田村教授の政策学上の議論は、「なぜ知的財産権が正当化されるのか」という根源的な話であって、原点に立ち返って議論を俯瞰する視座を提供してくれた。ディジタル諸メディアの登場に対する対症療法というか、場当たり的な議論に陥りがちななかで、僕自身も著作権の哲学に思い至らなかったことを反省する。なぜ、著作権は認められるのか。
「知的財産法政策学研究20号」で発表された田村氏の論文「知的財産法政策学の試み」は北大のサイトで読めるので、あとで目を通したいと思う。席上で引き合いに出されたジョン・ロックの労働所有論についての、一般の財産権が自己犠牲への代償として与えられている、というような指摘が特に興味深かった。
田村氏の論は特にその部分に対する反論としては展開していかないのだけれど、僕がここで、著作物が「自己犠牲というよりはむしろ自己実現の結果として」出現する経緯に非常に強い関心を覚えた。もちろん、小麦や自動車が人間性の犠牲のみによって生まれる、とは言わない。そこにも自己実現は十分にありえる。けれど、それらは他者の観察としては、あたかも農夫・工夫の犠牲のうえに産出されたと推定しやすい。
一方、絵画や小説についてそのような推定は成立しづらい。これももちろん、事実としてそこに自己犠牲がなかった、と言っているのではない。ただ、あくまでも他者の観察としては、そこに自己犠牲を見出すのが――少なくとも小麦や自動車ほどには――容易ではないだろう、ということだ。その上で、情報産業の発展と成熟が、農夫・工夫のアナロジーとしての情報産業労働者像を生んでいくとするとすれば、そこにはそれでSF的な面白みがある。
ただ、推定された自己犠牲のアナロジーよりも、事実としての自己実現の果実として著作物を、そして、さらには小麦や自動車を理解していく方が僕の感覚にはしっくりくるし、少なくとも現代的な労働観には近いのではないかと思う。議論としては飛躍があるのは重々承知だけれど、著作権制度への考察が、自己実現と経済機構の関係を再定義するヒントを与えてくれるのではないか、なんて予感にわくわくする。
関連記事:
- Newer: セミファイナリスト、蔵王山
- Older: ブノワ (表参道)
Comments:0
Trackbacks:0
- Trackback URL for this entry
- http://www.thesyntaxerror.net/2008/04/20/233432/trackback
- Listed below are links to weblogs that reference
- 慶大DMC機構ほか「著作権には何が欠けているのか」 from チャールズ街141番地 by the SYNTAX ERROR



