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ニュー・ヨーク・フィルハーモニック 第14,616回公演

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 午後6時半、打ち合わせを終えた僕はホテルで上司と別れ、いそいそと北を目指す。目指すはリンカーン・センターでの、ニュー・ヨーク・フィルの演奏会。ピアノのマルタ・アルゲリッチ(Martha Argerich)が体調不良のためお休みで残念だったけれど、マンハッタン最後の夜を楽しむ。(写真は練習風景)

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 もともと2泊の予定だった出張を、こちらに着いてから仕事の都合で1泊延長。こうして突如生まれた新たな一晩を、どう過ごすか考えるのは楽しい。ブルックリンでのポール・サイモン(ニュー・ヨーク的!)のコンサートがまず目にとまったけれど、こちらは残念ながら売り切れ。そこで趣向を変えてニュー・ヨーク・フィルの演奏会に行くことにする。

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 当初ピアノを弾く予定だったアルゲリッチは体調不良のためお休みで、代わりはアンドレ・ワッツ(Andre Watts)。指揮はシャルル・デュトワ(Charles Dutoit)。曲目は次の通り。

モーツァルト 歌劇「フィガロの結婚」序曲 作品492
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 作品15
ラフマニノフ 交響的舞曲 作品45
ラヴェル 「ラ・ヴァルス」

 「フィガロの結婚」序曲が燦然たる幕開けとなって、いやがうえにも盛り上がる。そこでベトベン。時差ボケの脳味噌に快楽の波状攻撃を受けて、僕は最前列で寝てしまった。まったく不本意なことに。ただ、僕は寝惚けた頭で、ピアノ協奏曲第1番はなんだか昼下がりのセックスに似てるなぁ、なんてことを鮮明に思った。

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 後半は眠気も吹き飛ぶ刺激的な曲目で、なんといってもラフマニノフの近代的都会的な音楽はこのマンハッタンに抜群に似合う。交響的舞曲では、アルト・サックス、ホルン、トランペット、チューバといった管楽器が登場して、映画音楽のような興奮をもたらせてくれる。「パイレーツ・オブ・カリビアン」のワン・シーンを思い出させた部分があったのだけれど、それはどこだっただろうか。

 最後を飾った「ラ・ヴァルス」には心を掻き乱すものがあった。冒頭のコントラバスからして不安な予感を与えるけれど、極めつけはなんと言ってもフィナーレだ。パンフレットにも「暴力的で脅迫的で苦々しい結末の残酷さには衝撃を受けるだろう」と書いてあったけれど、その警告もいまでは虚しく聞こえるほど、僕はそのフィナーレびっくりした。

 このショック状態のまま立派なコンサート・ホールから夜のブロードウェイに放り出されるのは、それでいて、なんだか痛快な気分でもある。全身の毛穴が開いたところに、イエロー・キャブのクラクションが押し込まれる。果たして、きょう僕は本当に「クラシック」のコンサートに行ったのだろうか? この刺激的な後味、大きな収穫だ。

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