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コヴェント・ガーデン王立歌劇場

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 空き時間ができた。絵画を愛する上司は国立美術館に、歌劇をかじる僕は王立歌劇場に行く。1週間ほど前にニュー・ヨークのキャバクラでオレンジレンジを歌いながら半裸になっていたのと同じ組み合わせだけど、守備範囲の広さが売りなのです。さて、王立歌劇場。歌劇そのものの話とは別に言及したくなるほど、素晴らしい劇場だった。多くの歌劇場を知っているわけではないけれど、ダントツの予感。

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 1990年代に建て直されたというこの歌劇場、公共空間の広さと食堂の充実に圧倒された。巨大な吹き抜けの下がバーになっていて、僕は「なるほど、ここがバーか」、と覚えてエスカレーターを登る。すると、吹き抜けの中段に設けられたレストランを通り過ぎる。これに限らず、レストランはいずれも白い木綿のテーブル・クロスがかかった立派なものだったと思う。エスカレーターを降りると、桟敷席の階にも広いバー・カウンターと、さらに別のレストランがある。

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 屋内だけでなく、屋上にもテーブルが用意されていて、こちらはテーブル・クロスなしのアルミニウムの簡易のものだけれど、木製のデッキに並べられていて気分がいい。コヴェント・ガーデンが見下ろせて、下から「スタンド・バイ・ミー」なんかを演奏するパフォーマンスが聞こえてきて、遠くに目をやればテムズ側南岸の大きな観覧車が、そして、トラファルガー広場のネルソン記念柱が見える。

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 遠景ばかりではない。目を内側に向ければこのバルコニーからは歌劇場の衣装室が見えて、大量のドレスと裁縫用のトルソーたちが見える。常に舞台裏を見せるのがよいとは思わないけれど、僕は今さらながら手芸の晴れ舞台としての歌劇をも感じ、あらためて総合芸術としての歌劇としての愉しみを覚える。これは言わばガラス工房の横でワイン・グラスを求めるような、そういう興奮なのだ。

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 あるのはガラス工房ばかりではない。館内をうろうろ歩いていて、僕はワイン畑にも出くわす。この王立歌劇場は英国王立バレエ団の本拠地でもあるとは階下で知ったのだけれど、桟敷席のさらに上の階にはバレエの練習場があった。ドアのフィルムの破れ目から、10代と思しき子どもたちがピアノに合わせてバレエの練習をする様子が見える。彼らこそが、未来の熊川哲也であり、シルヴィ・ギエムなのだろう。

 観劇にまつわるインプットは主にふたつあって、ひとつは食事と酒、ひとつは周辺の物語だ。各階ごとにあると思われる充実したレストランとバー、そして建物を覆う舞台芸術の守護者としての1世紀半の矜持が、座席に向かう僕の気持ちを満たしていった。

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