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悩ましきかな外国語

  • Posted by: Syntax
  • May 4, 2008 12:59 AM

 アメックスのことを延々と書いていて外国語の表記に悶々とした。同社の冊子は「ヴェニスに行かれるのでしたら...」とゴンドラを勧められた話の下で、「トラベル・サービス」について説明をする。「v」の音の表記の不統一は実に見栄えが悪く、「ヴェニス」なら「トラヴェル・サーヴィス」じゃないかと僕の気持ちは場外乱闘をする。外国語表記はこのブログだって二転三転するのだけれど、八つ当たり的にこの悶絶を吐露してやろう。

 アメックスが連発する「コンシェルジェ」も気持ち悪い。英語でもフランス語でも「コンシエルジュ」なんじゃないかと思うけれど、どうなんだろう。以前アメリカの大学で「Vehicle」を「ヴィークル」と発音したら舌っ足らずだと注意された。「ヴィヒクル」だ、と。けれどそれはカタカナとしてやり過ぎな感じがして、僕は「ヴィークル」と書いている。だから「コン"シェ"ルジェ」のことは言えた義理ではないけれど、でも語尾は「ジュ」のほうが適当ではないだろうか。

 そもそも「v」音の「ヴ」表記にも悩みがないわけじゃない。日本語会話として僕らはあの楽器を「バイオリン」と呼ぶのであって、「ヴァイオリン」と呼んでいたら鼻持ちならない。そして、字面のまま読んだら鼻持ちならない書き方でもって「ベートーヴェン」だの「トラヴェラーズ・チェック」だのと書くのは自己矛盾ではないのか。さらに、「徳用昼食」とでも言うべき和製英語「サービス・ランチ」までをも「service lunch」かのごとく扱って「サーヴィス・ランチ」と書くべきなのか。

 中黒もひどく悩む。フィアンセに言わせたら「ニュー・ヨーク」はやり過ぎらしいけれど、二単語であることは僕なりに尊重したい。そこで彼女の好きな村上春樹を引っ張り出して英単語間の中黒を正当化しようとしたら、彼女曰く「ハルキはジャズの人だからいい」のだそうだ。確かにジャズの世界では「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」で、僕は別に「ジャズの人」じゃない。けれど、もし「ニューヨーク」でそれを聴くなら「フライミートゥーザムーン」となるべきで、これは実に具合が悪い。一方で、「ニュー・ヨーク・ヤンキース」というよりも実は「ニューヨーク・ヤンキース」という方が読みやすいだろう、とも思う。

 リエゾンが働くとさらに中黒は悩ましい。このブログも「ロス・アンゼルス」と「ロサンゼルス」で揺れた。この地名はさらに「~アンジェルス」とすべきか、という別の問題も孕むが、それはさておき。このリエゾン問題を決心させてくれたのは、リエゾンが溢れかえるフランス語だ。「サン・オノーレ」(音として不正確だ)も「サン・トノーレ」(「t」音が二語目に属するとまでは言えまい)もしっくりこないから、消去法的に「サントノーレ」とせざるをえない。結果として、「ロサンゼルス」に落ち着くことになった。

 中黒には日本語として並列の機能があるから、「リンゴ・バナナ・ミカン」は間違ってないと思う。けれど、「リンゴ・バナナ・ミカン・アメリカン・チェリー」は読むに堪えない。そうすると並列は読点でかわして、「リンゴ、バナナ、ミカン、アメリカン・チェリー」とするけれど、これまた前後に読点が多いと目に悪い。最後の逃げ場はスラッシュで、「リンゴ/バナナ/ミカン/アメリカン・チェリー」なら中黒とも読点とも干渉しない。ただし、難点はスラッシュの用法に共通理解が醸成されたとはまだ思えないところだ。

 中黒といえば、アメックスの冊子でもうひとつ気になったものがある。中黒を箇条書きの記号に流用するから「・プラチナ・カード・アシスト」などと落ち着かない字面になる。僕の知り合いが入社したマーケティングの会社で、「中黒を箇条書きに使うべからず」と叱られたという話を聞いて、立派な会社もあるものだと思ったのを覚えている。おっと、ついつい外国語から話がそれて中黒の話になってしまった。僕はよほど中黒が好きなのだろう。

 一方、アメックスの冊子にも安堵すべき点もあって、それは、「Fine Hotels and Resorts」を「ファイン・ホテル・アンド・リゾート」としたところだ。複数形をカタカナに持ち込んで、「ファイン・ホテルズ・アンド・リゾーツ」とすると、特に「リゾーツ」って何だよ?ということになる。英語の複数形はあくまでも英語側の問題として、日本語では複数形を無視して単数形でカナ表記すればいいのではないだろうか。こういう例はたくさん見覚えがあって、僕は目にするたびにその節度に感心していた。

 もっとも、そうは言うものの、ここでイタリア語の問題が鎌首をもたげる。単数形「パニーノ」よりも複数形「パニーニ」が浸透している事実を無視して、単数形だから「パニーノ」というのは些か意固地だ。けれど、なぜイタリア語では単複活用を取り込むのに英語では無視するのか、と言われると答えに窮する。常にカナ表記が既に定着したものばかりを扱うとは限らないから注意したいけれど、どうしていいか見当がつかない問題は多い。

 悩ましきかな、外国語。

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