- July 26, 2008 6:18 AM
- 旅する
JL2便がサン・フランシスコ国際空港に降り立つ直前、僕は入管書類の滞在先に「ネヴァダ州ラス・ヴェガス、MGMグランド」とだけ書いた。ヨセミテだのデス・ヴァレーだのグランド・キャニオンだのというよりも、最終滞在地のポピュラーな観光地のほうが"通りがいい"と思ったからだ。ところが係員に「どうやって行くんだ?」と聞かれるから、僕は正直に「運転していきます」と答える。サンフランとヴェガスは900kmも離れているのに。すると係員は、「じゃあデス・ヴァレーも行くのか?」という。なんとも察しがいい。「そうです。加えてヨセミテにもグランド・キャニオンにも行くんです。」と話したら、係官はアメリカを代表するかのような満足の笑みを見せ、そして僕らは「よい旅を」と快く入国を許される。こうして、実は900kmどころではない、2,000kmの旅がはじまる。
憧れの車を借りたら、すぐにルート101を北上して、バークレーのアウトドア用品店REIを目指す。時計は――僕らにとっては2度目の――7月15日の正午を指していた。日没までには300km先のヨセミテ国立公園に到着したい。本当は助手席の妻のためにゴールデン・ゲート・ブリッジを通ったりもしたかったのだけど割愛して、ハイウェイ上から超ダイジェストの市内解説。いわく、「あの三角のビルが金融街で、その隣に中華街、そこを降りるとマーケット通り。その突き当たりがカストロ通り。半島の北側にゴールデン・ゲート・ブリッジがあって、その手前にアルカトラズ島やフィッシャーマンズ・ワーフ。あ、いま走ってるのが僕が昔住んでたあたり。」以上。実際に見えたのは冒頭のトランスアメリカ・ピラミッドの先端だけ。また来ましょう。
バークレーのREIではプロパン・ガスを2本購入。これでランタンと煮炊きは大丈夫。ついでに隣のウォルグリーンズ(Walgreens)で眠気覚ましの缶コーヒーやらグミやらといった遠足グッズを買い込む。そのまたついでに、さらに隣にあるチポレ(Chipotle)というメキシカン・ファーストフードで妻が巨大ブリトーを2個買ってくる。このチキン・ブリトーは傑作で、それほど空腹を感じていなかった僕も、運転席に飯粒やら豆やらをぼろぼろとこぼしながら貪り食べてしまう。そして眼前にはアルタモント(Altamont)の風車群が見えくる。広大で柔和な丘陵と手軽で旨いメキシコ料理。カリフォルニアに来たんだなぁ、という実感が目と胃から沁みわたってくる。
果てしなく見える風景も、しかし、荒涼とした草原から緑の森へとゆっくりと変わっていく。一直線の道路はやがて曲がりくねった山道になって、湿潤で均一に見えた森林はところどころに山火事の容赦ない傷跡を見せるようになる。そして、ついに僕らは峠からヨセミテの渓谷を見下ろし、この新しい風景に僕はいよいよカリフォルニアの懐に飛び込んだことを実感する。
峠を超えて渓谷へと下っていくと、半時間ほど前には視点の高さにあった絶壁エル・キャピタン(El Capitan)が、空を覆うばかりにせり上がってくる。そして足元にはマーセッド川(Merced River)が鏡の水面を保ちながら静かに流れ、かつて堅牢な花崗岩を深く削り取った荒々しい氷河の名残をとどめている。
公園のウェブサイトを通じて予約しておいた山小屋は、ヨセミテ渓谷のカリー・ヴィレッジ(Curry Village)にある。キャンヴァス・テント(Canvas Tent)というだけあって屋根も壁もパイプの骨格に生地を張った簡素なもので、雰囲気がある。一方で板張りの床はしっかりとしているし、パイプ・ベッドには清潔なシーツと毛布が、素朴な鏡台の上にはバスタオルまでもが用意されていて、しかも冬用のヒーターの横には電源コンセントまである。この山小屋は想像以上に、しかし、野趣を害さない程度に、快適だった。これで1泊85ドルなら良心的だ。
夜はカレー・ヴィレッジの売店で冷えたクアーズと白ワイン、そして明日の山登り用にトレイル・ミックスなどを買って山登りの明日に備える。ビールとワインが旅の疲れに沁みこんで、僕らは日没から間もなく、簡素なベッドで眠りにつく。パイプベッドと荒削りなスプリングのマットレス、そして清潔でいて多少ゴワつく毛布は、なんだか保健室のベッドを思わせた。
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