美術館で3時間も立ちっぱなしで絵画と対峙していると、さすがに腹が減る。そこで、前から気になっていた英国料理、ステーキ・アンド・キドニー・パイ(steak and kidney pie)を試すことに。JALが機内でくれるガイドブックによると、ザ・ウィンドミル(The Windmill)という店が良さそうだったので、リージェント通りまで足を延ばして遅めの昼食を、けれど時間を気にしつつ急いで食べる。この英国風モツ煮、必要にして十分の濃厚さで意外にもクドさがない。ちょっとガッツィーなビーフ・シチュー、といったところだ。
この皿が供されるまで、僕は自分が勘違いをしていることに気づかなかった。「ステーキにパイの付け合わせ」というのが「ステーキ・アンド・キドニー・パイ」だと思っていたのだけれど、実際は「肉やら腎臓やらが入ったパイ」、ということだったのだ。あわや「ステーキも頼んだんですが」と言いそうになった。もっとも、言っていればウェイトレスに「あらやだ、これがステーキ・アンド・キドニー・パイよ」なんて言われたりして、ちょっとした旅情の風景だったかも知れないけれど、気づいてしまったものはしかたない。
パイを開くと、キャセロール皿のなかには、ドミグラスに浸って肉やら臓物やらキノコやらが湯気を立てていた。肉には柔らかく火が通ってソースが深く沁み入っていた。少なくとも意識して食べるのは初めての腎臓も、レバーのような――というと失礼かも知れないけれど――滋味があって、それでいて覚悟したようなアクはまったくなく、多少ゲテモノ食いの覚悟でいた僕はちょっと拍子抜けだった。ヒネリの効いたビーフ・シチューといった趣で、訪英の度に食べてもいいなぁ、と思ったくらいだ。
惜しむらくは、付け合わせを何も頼まなかったこと。そもそも僕は、ステーキが主でパイが付け合わせだと誤解していたし、そうでなくとも欧米流の分量で多すぎたらどうしよう、なんて心配までしていたのだ。ところが、量は決して多くはなかった。どんな付け合わせがあったのかよく見てもいないけれど、マッシュポテトなんかにスープをかけて食べたらさぞ旨いだろうなぁ、という感じだ。次回は付け合わせを試してみよう。
もう二度とご免だ、という料理を食べるのも捨てがたい旅の経験だけれど、やっぱり、また食べたいと思う一皿に出逢うほうが好ましい。僕も大人になったなぁ。
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