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キフだけじゃイヤッ!?

  • 2008-12-13 (土) 11:38
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 英国王立歌劇場から電子メールでクリスマス・カードが届く。一斉送信のメールとは言えそのマメさに感心する一方で、ブランディングとか販売促進とかという下心での地道さに感服。同じ歌劇場でも東京文化会館からこういう案内をもらった記憶はないので、日本でもこういう取り組みをしてもいいんじゃないかな。そこであらためて、英米の文化施設の経営姿勢について思うことを書いてみよう。

 王立歌劇場はオンラインでチケットを買うとき、チケット代金とは別に寄付を募っている。クレジット・カードで決済するときに、ついでにちょっと上乗せしてもらおう、というお誘い。お国柄の違いかもしれないけれど、ニュー・ヨーク・フィルハーモニックはもっと明確に、「チケットの売り上げだけでは経費の半分も賄えません。だから同額を寄付してくれませんか?」ということを謳っていた気がする。ともあれ、オペラやオーケストラは経営が厳しいだろうし、さらに、寄付を行えば行ったで一体感が生まれるから、こういう業策は大いにやった方がいいと思う。
 ちょっと話がそれるけれど、米国のプロ・ゴルフ・トーナメントは金融危機の煽りを受けてスポンサー探しに苦慮しているという話を聞いた。ニュー・ヨーク・フィルはクレディ・スイスが後援しているけれど、経済情勢の悪化とは無縁ではないだろう。聴衆にしても後援者にしても、日々の生活が苦しい時にオーケストラを優先させることは難しい。そうなるといよいよ、善意による運営と呼ぼうとも、媚を売って毟ると呼ぼうとも、いずれにせよ付加的な収入源の重要性は高まってくるだろう。

 ひとつの事例として、英国国立美術館。ボッティチェリからセザンヌまでの良質な絵画を収蔵しながら、実は入館料は無料。驚くほど充実した音声案内機の貸出も無料。クロークも無料。しかし、無料だからと言って「金をとらない」というわけではない。入口のホールでは賽銭箱が堂々と入場者を出迎えるし、案内機の貸出カウンターで値段を聞くと「無料ですが心付けは歓迎します」とはっきり言う。結局のところ僕は、感覚的に入館に5ポンド、案内機に2ポンド、クロークに2ポンド支払う。他の人が幾ら払ったかは知らないけれど、僕は僕なりに満足している。さらに言えることは、仮に「入館料は3ポンドで、案内機は1ポンドです」と初めに言われていたら、僕は絶対にそれ以上を払わなかっただろう、ということだ。
 同じイギリスのレイディオヘッド(Radiohead)は2007年10月、「楽曲の値段はあなた次第」という音楽配信を試みた。40%のユーザーが金を支払った(あるいは60%が支払わなかった)という米コムソース(comScore)の調査結果には疑義も呈されているし、ミュージシャンが定価をつけて売るよりも多くの利益を得られたとも思えない。けれども、「上振れ」の余地を残した価格政策は、特に著作物では有効なんじゃないかと思う。著作物には原価という発想が馴染まない以上、売り手の側が値段を決めること自体が、そもそも無理があるようにすら思える。売り手は、英国王立歌劇場やニュー・ヨーク・フィルのように最低価格だけを決めればいいんじゃないだろうか。


 もっとも、「最低価格を決めたら結局のところ最低価格に落ち着いてしまう」という懸念はあって、さらにそれは傾向として正しい。かく言う僕も、王立歌劇場でもニュー・ヨーク・フィルでもチケットを買う時に寄付はしていない。観劇(感激)する「前」に財布の紐を緩めるのは難しい。けれども、感動の「最中」や「後」はチャンスだ。ニュー・ヨークのフィッシャー・ホールでは、ただ泡立っているというだけのスパークリング・ワインをプラスティックのグラスに注いで、確か10ドルで売っていた。さらに、英国国立劇場のミュージアム・ショップではゴッホの絵が印刷されただけのメモ帳についつい3ポンドも出してしまう。他のシチュエーションだったら確実に落胆するようなワインも、見向きもしないようなメモ帳も、それぞれの文脈の中で価値を生み、出張の合間の心地よい息抜きとして僕の記憶と机の引き出しに残っている。
 これだけ長々と書いて、結局僕が話しているのは「縁日」のことなのかも知れない。神社に参詣して都合のいいお願いでもあれば賽銭も5円といわず10倍か20倍くらいは奮発して、その清々しい気持ちのまま、強気な価格の甘酒でも飲もう。縁日が素敵なのは、神様という究極のコンテンツを掲げながら、参道という物理的かつ心理的な導線で着実に収益を上げていることだ。それは決して気分を害するようなことではない。まして、その収益の一部で屋根が噴きかえられたり、鳥居が修繕されたりするのであれば、参詣者として本望だ。
 その点で、英国国立美術館の情報開示は一歩も二歩も進んでいる。現在や過去の財務状況のみならず、英国文化省大臣(the Minister for Culture)と美術館との間で締結した、国家からの資金拠出に関する3年契約全文も開示している。そんな契約の存在自体が既に先進的だけれど、美術館の義務や財務目標、リスク開示といった内容が真摯だし、さらにこれが開示されていることが素晴らしい。入場料は無料のまま、寄付をたくさん集め、ミュージアム・ショップやらカフェやらで収益を上げ、これらの経営努力をもってして良き美術館であり続けて欲しい。

 国家による資金拠出自体が文化支援策として評価される節もあるけれど、効率的な経営を通じて美術や音楽が商業的に自立することの方が、何倍も素晴らしいよなぁ。

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