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ほうとうの県外者 - 御食事処 歩成


 ほったらかし温泉のあとは名物ほうとうを食べようということで、同僚のR君が勧めてくれた一味屋という店をカーナビで探していくのだけれど、「目的地周辺」でも見当たらず電話をかけても出ず。午後7時半には閉まってしまうのか? そこで、誰もいない葡萄工房ワイングラス館という施設の駐車場で携帯電話をひらいて食べログで山梨市のほうとう店を検索。けれど、検索の結果に関わらず歩成という店の店構えに吸い寄せられる。これは正解だったみたいで、新鮮な馬刺しと熱々のほうとうに舌鼓を打つ。



 山梨市駅まで戻って、一味屋のプランBとして探した のんきばーば に向かっていたのだけれど、直前に目にとまった歩成という店の店構えに惹かれる。路地裏の一軒家は寒空の下で温かに見えた。引き戸を開けると店内は賑わっていて、僕たちが入ってすぐに満席になる繁盛ぶりだった。豊富なメニューに目移りしたけれど、あくまでも目当てはほうとう。ほうとうを待つ間の前菜ということで名物らしい馬刺を頼む。
 
 この馬刺は格別で、500円は安すぎるんじゃないかという鮮度。臭みもなく柔らかで食べやすくて、それでいて、ひと噛みごとに馬肉の滋味が浸み出してくる。奥の小上がりが飲み会の若者で埋まって、はじめは僕らだけだったカウンターも地元のオジサンたちで賑わってくるころには、
このお店は当たりだ!という予感が確信に変わってくる。そこで2皿目は、メニューのお勧め2位の馬のレバ刺。馬刺が旨ければ、馬のレバ刺も旨いだろう。というか、馬のレバ刺なんて初体験だけれど。

 この馬レバ刺もプリプリとした歯応えがあって、運転のためにビールも日本酒も飲めないのを恨みながら、それでも嬉しく平らげてしまう。これで600円も破格の値段。これは胡麻油の香りではないと思うのだけれど、レバーからは栗の実のようなコクのある甘みがあって、これらの馬は一体どこで育てられたのかと思う。それが旅人の安直な連想を誘って、信玄の騎馬隊が馬の文化を甲州に育んだのだろうか、なんて。


 そうこうするうちに、「13分経ったら食べてください」と言いつけられた卓上のほうとうが完成。店にはただの「田舎ほうとう」と、「かぼちゃ田舎ほうとう」、「豚肉田舎ほうとう」、そして「きのこ田舎ほうとう」があったので、僕たちは豚肉ときのこを頼んで、それぞれの鍋と対峙してこの瞬間を待っていた。といっても、馬刺と馬のレバ刺でほとんど時を忘れていたけれど。
 味噌汁には何種類もの野菜の味が溶け込んでいて、ほうとうの麺はゴツゴツと無骨な形をしている。このゴツゴツの表面がよく汁と絡んでいて、麺もコシがやたらに強いというよりはむしろシナヤカで、シンプルな味付けなのに飽きずに食べられる。けれど、たぶん本来ならば2人で鍋1つというのが相場のようで、妻の鍋を手伝ったら完食したときには完全に満腹。ほうとうを食べるなら、一品料理を楽しんでから、最後にシメで鍋をシェアするくらいがちょうどいいのかも。
 店の手洗いで女の子と居合わせたので、「このお店は人気ですねぇ」と話したら、「そうなんですよ。あ、県外の方ですか?」と言われる。「東京から来たんです」と答えたら、「そうですかー。そういえば、カウンターのこっちで、ほうとう食べてましたよね!」と彼女。見られていた! というか見破られていた! 県外者のみなさん、イキナリほうとう食べると県外者だってバレますよ。地元の通は最後にほうとう、なんでしょうか?

歩成 (居酒屋 / )
★★★★ 3.5

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