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ガディッシュ他「プライベートエクイティ 6つの教訓 経営のための知恵袋」


 本書はプライヴェート・エクイティ(PE)事業の詳説というよりは、副題の通りPE側から事業会社側に対する助言、という内容だった。前書きは「本書をその一助とされながら、正しい時期によいパートナーを選択され、名実ともに業界内でのグローバルリーダーシップをお取りになる日本企業が、たくさん出てこられることを、祈念してやまない。」と訳者であるPE幹部が宣伝調で結んでいる。時折見えるこのような論調がポジション・トークの疑いを無用に招くのが残念だったけれど、それを差し引いても、PEの競争力の泉源を示唆する良書だった。

 著者は「結局のところ、フルポテンシャルを追求するための現実的で実施可能なタイムフレームは、ほとんどの場合、3~5年ということになる。つまり、それがPE投資家の標準的なタイムフレームなのだ。」という。僕は3~5年の時間軸が絶対的に意味があるとまでは思わない。それは「フルポテンシャル」というゴールの高さ自体が時間軸によって伸縮するだろうからだ。3~5年という時間軸は、しかし、それでも相対的な意味があるだろう。それは、四半期決算に一喜一憂する短期保有の投資家にも、企業統治が弛緩しがちな長期保有の系列会社にもない、新しい時間軸だろうからだ。その傍証として次のような記述がある。

いまや企業総価値が1億ドルを超える資産のほぼすべての売却は、意欲的な投資銀行によって競売にかけられているのが現実だ。さらに、1980年代にはプライベートエクイティのリターンが非常に高かったことから、雨後のたけのこのように新しいファンドが設立され、競争も激化している。今日では、資産を潜在的価値より割り引いた金額を買うことはほとんど不可能だ。

 競争を通じて市場の値付けが機能しているからこそ、裁定取引の余地は小さい。この状況下で重要度を増すは、より根源的な企業価値の向上になる。そこで威力を発揮するのがPE投資家の行動力だ。「最初のイニシアチブを100日以内に着手することを目指して、ブループリント・プロセス作成作業に2~6ヵ月ほどの期間をあてるように計画する」という。企業価値向上のための数か月単位のプロジェクトはコンサルティング会社も実施するけれども、PE投資家は自己資金を投じており、主として機関投資家から集めたその資金には期待収益という重荷が課せられている。企業価値向上を早期に仕上げる動機はPE投資家の方が高いだろう。そのためにPEが採用する指標も徹底している。

「顧客1人当たり利益」を測定するのは事後を振り返ることでしかない。それに対して、「先月獲得した、高い価値を持つ顧客の数」の測定は、将来の重要な行動指針を明らかにする。同様に、「売り上げ減少」の測定は確かに問題の指摘にはなるが、何人の顧客が解約したかという顧客チャーン(離反率)の測定は、マネジメントがどういう奨励策を打つべきかの指針を与えてくれる。

 外部の投資家が、投資先事業の「決算報告で明らかになる前にモニターできるような指標」が何であるかを見極めるのは容易ではない。そこで興味深いのはTPGキャピタル共同創業者のジェームス・カルター氏の(James Coulter)次のような発言だ――「私たちは、たちではなくらの価指標を使う。コーポレートセンターが先入観で押しつける経営指標ではなく、ここの事業部門にとって意味のあるパフォーマンス指標を使うべきだ」。それは例えば、下記のような事例に象徴される。

たとえば、投資先の1つがワイン醸造会社だったあるPEファームは、指標に総資産利益率や経済的付加価値(EV)ではなく、キャッシュフローとそのキャッシュの回転サイクルを使った。なぜなら、ワイン醸造業は固定資産が非常に重要な意味を持つ特異な事業だからである。収益から減価償却費を引く評価指標を使うことは、長期的に企業価値を高めることになるブドウ園とワインセラーを持ち続けるワイン醸造会社には、短期的には実態以上に会社の価値を過小評価させることになるからだ。

 このような実直さは投資先の功労者への報酬についても明言されている。「重要なイニシアチブで抜群の功績をあげた幹部に、(かなりの金額の)ボーナスを支給することには何の問題もない。」と著者は断言し、投資先の経営陣への経済的誘因の与え方について次のように説明する。

たとえば、マネジメントチームは当初その企業の全株式の5~10%を保有し、さらにあと20%を手にすることも可能な形だ。つまり、投資期間(3~5年が多い)の最後には、その企業の価値の4分の1が彼らのものになるというタイプのインセンティブだ。これはかなりの金額になる。給与とボーナスを足した額よりもはるかに大きい。それぞれの企業の事情にもよるが、このシステムに数十人が関与するとしたら、全体のパフォーマンスには相当な影響を与えるだろう。

 著者は優秀な人材を引き付けるための要素として、「会社の使命」、「地理的場所」、「出張の有無」、「魅力的な幹部」、そして「刺激的な上司」を挙げている。けれども、その最前列で述べられるのは「人材に対する金銭的オファーは、少なくとも彼らが負うリスクに見合ったものであるべきだ」との哲学だ。そして、次のように続ける。

古くさい給与等級や、時代遅れの階級システムの考え方に縛られてはいけない。ほかの企業が有能な人材にどのような報酬を提供しているかを調査し、そのデータに基づいて、他社と比べて見劣りのしない給与を保証すべきだ。

 ここで語られる経済原理は――その冷たい語感とは裏腹に――、たとえば獲得した顧客の数であったり、人材への報酬であったり、ひたすら実態に根差している。棚卸資産管理や受取・支払勘定管理を通じた現金創出能力向上のくだりなどは、商店街の青果店のそれと全く変わらない基本を説いているに過ぎない。けれど、この愚直さはどこか青臭い危うさを孕みつつ、しかし、若さに満ちていて魅力的だ。ここにPEの熱源があるのではないだろうか。

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