「浮沈のオーヴァーブッキング – 浮」の続き、つまり、不運な方。ボストンのローガン空港からバスと地下鉄を乗り継いで新居の最寄りの駅へ。グーグル・ストリート・ヴューで何度も見た通りを初めて歩き、アパートの入口で呼鈴を押す。うーん、応答がない。まぁ学校にでも行っているんだろう、ということで近くのスタバへ。まだ携帯電話はないけれど、ここなら有料の無線LANが使えるし、何よりも気兼ねなく時間も潰せる。要するに僕は、まだ事態の行く末を甘く見てたんだよね。
ボストン・レッド・ソックスの旗が掲げられたアパートを後にして、駅の向こう側のホテルへ。まずは入居に関して連絡を取り合っていた2年生のFに電話をかけようと思ったわけだ。まだ携帯電話はないけれど、ホテルなら公衆電話のひとつもあるだろう、と。ところがロビーに電話は見当たらず、受付で聞いても「最近アメリカではみんな携帯電話を使うから、公衆電話はこの辺りではほとんど見ないわ」なんて言われる。そうかなぁ? むしろ僕は日本でよりもアメリカでの方が公衆電話をよく見かける気がするけど。ともかく、トイレで用を足してホテルを去る。公衆に開かれたトイレなら、イエス、日本と比べればアメリカの方がずっと少ない。あと自販機もね。まぁいいや。
ともかく電話は諦めて、スタバでPCを開き、「着いたんだけど留守みたいだ。何時くらいに帰ってくる?」なんてメールをFに打つ。しばらくすると、Fが「誰か彼を入れてやってくれ」なんてメールをルームメイトと思しき面々に送っているのをCCで受け取り、僕は彼の不在を知る。数日後に僕は、彼は夏休みで故郷のイタリアに帰っていたことを知るんだけどね。ともあれ、30分と経たないうちにRという人から「私は家にいるから呼鈴を押してくれれば開けるわ」なんて返事が来る。そこで再挑戦。
呼鈴を押すとRと思しき女性が応答して、いま行くという。いや、遠隔操作で鍵だけ開けてくれればいいんだけど、と言う間もなく彼女は3階から降りてきてドアを開けてくれた。解錠のための電気系統は壊れているらしい。ともかく、年季の入った木製の螺旋階段を登る。それはちょっとパリの建物に似ていたけれど、パリなら螺旋の中心に辛うじて設置されていたであろう小さなエレヴェーターはない。そんなわけで僕はかなり頑なに断ったのだけど、Rは僕のキャリーオン・バッグを持って上がってくれた。僕は大きなスーツケースを引っ張り上げながらついていく。
3階のアパートで「今日引っ越すことになった者だ」と紹介すると、ちょっと驚いた彼女は「どの部屋?」。僕は「一番小さな部屋だと聞いているけど」なんて言うと、「その部屋はCがまだ使ってるわよ」と彼女。さて、今度は僕が驚く番だ。肝心のFはイタリアで、Rが電話をしても通じないし、とりあえず僕は居間に落ち着く。いや、全然落ち着かないけれど。しばらくするとCが――彼女もスローン校の1年生だった――帰ってきて、僕らの契約のオーヴァーブッキングを互いに驚く。僕は月初から契約したのに、彼女の契約は月末まで残っているという。やれやれ。
僕はCを追い出すつもりもなければ、そもそもこれは彼女の落ち度でもない。Fの責任を示唆しつつ、僕は彼女に「ともかくFとすぐ話さないとね」と言ったら、「いまイタリアにいる彼に出来ることは大してないし、『どこかで誤解があった』と弁明する以外ないだろう」と彼女。そして、「いま我々が持っている選択肢を検討しましょう」という。実に建設的。そして驚くべきことに彼女は、退去を早めて翌週の金曜にしてくれた。1カ月の重複が10日程になった。オーケー、10日くらいならソファで寝てもいいや。
そんな訳で、新居のオーヴァーブッキングというかなりトホホな理由から、僕の寝床はベッドからソファにダウングレード。この日の13時間のフライトはオーヴァーブッキングでプレミアム・エコノミーからビジネス・クラスにアップグレードされて、これは言わば椅子からソファへの昇格だ。ところがその直後、僕は10日間を個室のベッドから居間のソファに格下げになる。
「神の見えざる手」ってのが実在して、それが幸運と不運とをバランスさせてるんだなぁ、と思わずにはおれない。まぁ、この2つのオーヴァーブッキングに関しては、ちょっと「貸し」の方が多い気もする。けれども、もし市場の反動を信じるならばこれは上昇の兆候ってことだ。さぁ、建設的かつ前向きに行こう! クラスメイトとなるCから、僕が早くも教わったこと。
関連記事:
- Newer: 草上のシェイクスピア
- Older: 続・不思議の国のUPS
-
http://www.thesyntaxerror.net/2009/08/17/002007 草上のシェイクスピア - チャールズ街141番地 by the SYNTAX ERROR
