- 2009-08-23 (日) 0:31
- MBA留学記

茹だるような暑さの中で僕は、同級生の車でボストン市内からちょっと離れたイケアに雑貨を買いに行ったり、あるいは、インターネットでアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」を見たりしていた。イケアは港北店と同じ物が同じ値段で売られているという点で新鮮だったし、涼宮は日本人の僕が日本のアニメをフランス語字幕で観ているという点が不思議だ。いずれもグローバリゼーションの賜物、という共通点があるだろう。
僕がイケアのことを初めて知ったのはサン・フランシスコにいた時だから、2002年だ。でもその時は名前――”I care”をかけてIKEAと言うのかと思っていた――と、安いという評判を聞いただけで、足を踏み入れたのは今年になって横浜の港北店に行ってからだ。港北店でイケアの安さや店の構造や広さにも驚いたけれど、僕がそれらの事実に本当に驚くことになるのは、ここボストンに来てからだった。
僕は港北店でテーブルや折り畳みの椅子やクッションを買ったのだけれど、僕が記憶する限り、それらの値段はボストンでも驚くほど同じだった。僕は自動的に、「あーあ、こっちの方が安くてちょっと悔しい思いをするんだろうなぁ」という心積もりでいた。けれど、日本で1,000円ほどで買った椅子はこちらでも確かに限りなく10ドルに近い値段で売られていた。同様に、「やっぱりアメリカは何でも大きいなぁ」という感想の予定稿もボツになった。港北店はボストン店と同じくらい大きかったことを追認して、通路の構造までソックリだったことと併せて、このチェーン店の統一性に驚かされる。
世界は本当に一物一価に収斂しつつあるのかぁ、なんてイケアのホットドッグを頬張りながら思う。イケアの家具は中国あるいはヴェトナムあたりで製造されているんじゃないかと想像するけれど、地球を半周した後にこの小売価格で売ってなお利益が出る製造原価って、すごい。日本の基準からすれば必ずしも裕福ではないであろう人々の労働に対して、イケアが世界市場へのアクセスを提供している、とも取れる。僕が中学生のときに取材したフェア・トレードってヤツを、カレー粉の瓶でもコーヒー豆の袋でもなく、倉庫大の大きさで見せ付けられた思いだ。
この物量と地理的な展開とで一物一価を見せ付けられると、保護貿易主義者でもない僕でも空恐ろしくなる。例えば日本で最低賃金を時給1,000円にします、なんて案があって、それはひとつの「公正」の追求ではあるだろう。けれど、僕自身はどんなに頑張っても、時給1,000円もらってもなおイケアに太刀打ちできる家具なんか作れそうもない。世の小売をイケアあるいはイケア的な国際的ディスカウンターが席巻したとしたら――未だ”していない”として――、僕たちに待っているのはグローバルな観点での失業しかない。本当の論点は最低賃金を上げてもなおその雇用が他国の労働市場から守られる、という競争優位をどこに構築するか、なんだろうね。
さて、その競争優位のひとつじゃないかと期待される日本のコンテンツを、あろうことか、インターネットで無料で観てる僕が通りますよ。到着して割とすぐに僕は、僕と同時期にハーヴァード・ビジネス・スクールに入学する日本人学生たちと飲む。そのうちの一人が「エヴァンゲリオン」について熱く話していたので、帰宅した僕はなんとなく「エヴァ」のパロディ動画なんかをユーチューブで見たりしていた。そこで関連動画を辿っているうちに、気づいたら「涼宮ハルヒ」関連に行き着いていた。
僕はまだ「ハルヒ」を観たことがなかったから、「渡米直後にすることがコレかい」という疑問は一旦横において、このアニメを観ることにする。無料の動画配信サイトを探しているうちに行き着いたVeoh.comというサイトでは日本語音声はそのままにフランス語の字幕がついた動画が配信されていて、僕は「涼宮ハルヒの憂鬱」ならぬ「ラ・メランコリ・ド・スズミヤ・ハルヒ(アルヒ?)(La Mélancolie de Suzumiya Haruhi)」を何日かに分けて熱心に観る。
僕は知財投資の側にいたから心苦しい部分もあるけれど、まぁ、違法ではないから許してもらおう。Veoh.comは米国のデジタル・ミレニアム著作権法下で運営されているから、削除を申し立てられない限り配信自体は著作権侵害にならない。じゃあ、僕がそれを奇貨として喜んで観ているところに職業上の倫理違反はないのか、と言われると言葉に詰まったりもするんだけど。ちなみにアニメNewtypeチャンネルでの有料配信は対象を日本国内に限定している。まぁ、言い訳と白状はこれくらいにして。
ともかく、「ハルヒ」では改めてファンお手製の字幕の品質に驚かされた。冒頭の主題歌には日本語詞がローマ字でカラオケとなっている上に歌詞はフランス語にも訳されていて、さらに劇中に登場する台詞にも適宜注釈がつけられている。一番驚いたのは劇中の画面で表示されていたであろう日本語もフランス語に書き換えられていて、お陰で日本人の僕の方が映像――例えば、キョンと長門とのチャットの内容――を理解できない部分があったりもした。このファンサブ(ファンによる字幕)に注がれた熱意、単なる海賊行為と切り捨ててしまうには余りあるものがある。
安い家具や無料の動画の背景には、グローバリゼーションあるいはデジタル化による”低きに倣え”の価格競争がある。一方で、後者の動画には日本のポップ・カルチャーに注がれた視線と熱意もまたある。この日本への期待感、これにどう応え、そしてこれを収益化していけばいいんだろうねぇ。その前に、僕がアニメにお金払いましょう、って話だけれど(やっぱりちょっと気にしてる)。
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Comments:2
- kajken 09-08-23 (日) 8:20
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どうもどうも。
あっさりと渡米しちゃったね。でもシンタの近況がblogやtweetで入ってくると
果たしてボストンと三茶の違いなんて
知れたもんじゃないかって気がします。さて、ハルヒは僕も渡米してからみたアニメです。
最終回のイノセントなハルヒにはちょっと感動しちゃうよね。 - Syntax 09-08-24 (月) 22:47
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どうもどうも。いろいろバタバタしてた気もするけれど、振り返ると随分あっさりと渡米しちゃいました。
三軒茶屋とボストンの違いというよりも、会社員と学生の違いの方が圧倒的に大きいなぁ。けれど、それでも、やっぱり環境の違いから受けるインスピレーションというのはあるだろうね。まぁ、この辺はおいおい。
まぁ、環境の違い云々などと言いながらも、オレはインターネットを熱心に渉猟しては「涼宮ハルヒの溜息」などを割とタイムリーにフォローしているわけだが。ついでに「けいおん」もフォロー開始。利根川先生も失笑だぜっ。
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