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バザールは伽藍となったか - ビジネスと美術

Source: arrestedmotion.com

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今朝のフィナンシャル・タイムズが、宝飾品ブランドのジェイコブ&カンパニーと村上隆とのコラボレーションを報じていた。デザイナーのポール・フリン(Paul Flynn)は「歴史を通じて美術家たちは最強の高級ブランド――キリスト教――から資金援助を受けてきた。ならば、より宗教色の薄い現代社会で、美術家たちが宗教ブランドからファッション・ブランドへ向かったとしても驚くべきだろうか」と問う。ポール・スミス(Paul Smith)も「ウォーホルとピカソはワインのラベルをデザインした」と言い、さらに美術家とのコラボレーションが来店客の滞在時間を増やすことも示唆する。免税店はいまや、かつて大聖堂が担っていた役割を肩代わりしているのだろうか。

ジェイコブ&カンパニーと村上隆がコラボレーションした作品「シンプル・シングス(The Simple Things)」は、10月1日からロンドンのテート・モダン(Tate Modern)で開かれる「ポップ・ライフ:物質社会のなかの芸術(Pop Life: Art in a Material World)」で展示されるという。ロンドンには金融の視察旅行で行くかもしれないので、その時は是非この展覧会を見てみたいなぁ。

テート・モダンはこの展覧会に関連して10月10日に、「良きビジネスは最高の芸術(Good Business is the Best Art)」というシンポジウムも開くようだ。そのシンポジウムではビジネスとアートの関係を議論し、大量生産時代における芸術家の戦略と作品の地位を検討するらしい。「芸術家の戦略」というのが面白くて、例えば村上隆がルイ・ヴィトンとコラボレートすると、「ヴィトンに使われちゃった村上」という図式が脊髄反射で浮かんでしまう。ただし、それはビジネス側からの視点であって、「村上はしたたかにもヴィトンを使った」と考えることも十分可能だし、芸術家の側ではきっとそう考えているだろう。両方が真、という可能性が高い。

ジェイコブとのコラボレーションでも、村上はペプシなどの安価な大量生産品にダイアモンドを散りばめて、それらを得体の知れない怪物に食わせている。それは大量生産製品であろうと高級品であろうと価値を問わずに飲み込む消費者の貪欲と無知を皮肉っているようにも見える。また、ダイアモンドが埋められたペプシの缶は、ダイアモンドを散りばめたジェイコブの時計を彷彿とさせて、まるで「どのブランドでも結局はただのコーラ(あるいは時計)に過ぎない」と嘲笑っているようにも見える。もちろん、「ダイアモンドこそが付加価値の源泉」という、スポンサー向けの解釈も可能だろうけれど(笑)。

ともあれ、ビジネスと芸術のコラボレーションは、必ずしも、芸術にバイアスをかけるだけとは言えないだろう。少なくとも、ビジネスが芸術に与えるバイアスが、教会以上に強いものだとは言い切れない。そう考えると、ポール・フリンの指摘は逆に、宗教芸術と芸術家との関係についても新しい示唆を与えてくれる。例えば宗教絵画は僕の苦手分野のひとつで、ウフィッツィ美術館で延々と並べられたイコン画については正直辟易したのを覚えている。けれども、もしそこに、教会というスポンサーを利用しながら試みた表現というものを僕が汲み取ることができていたら、あの回廊での時間はもっと違っていたかも知れない。これは現代の個人主義的な発想だけれども。

教会の持つ社会的な影響力を考えれば、グーグルもヤフーもその足許にも及ばないかも知れない。けれども、複数の宗教が容易に両立しないのと対照的に、僕たちは複数のブランドに囲まれて生活することに慣れている。このことは、者延べ人数は宗教ブランドよりもファッション・ブランドの方が数倍にもなりえることを示唆している。多様なブランドがそれぞれ、多様な顧客にアプローチしようとしたとき、それは単一の宗教がその信者にアプローチをするよりも遥かに多様な表現を伴うだろうし、それを実現する商業的な動機と資本がある。これは、芸術家の側の「戦略」にも利するかも知れない。

興味深いのは、宗教画は宗教全般に対する批判を許容しないであろう一方、個々のファッション・ブランドはビジネス全般に対しての批判を進んでなし得る点だ。そこには例えば量産品を批判しながら別種の商品を量産する、という矛盾が起こる一方で、その矛盾がまさに多様性の母胎になっているようにも見える。エリック・レイモンドがソフトウェア開発について論じたのと同様に、美術もまた、伽藍からバザールへと重心を移すのだろう。もちろん、フィナンシャル・タイムズが書くようなことを追認しても実はまったく面白くもなんともないので、本当に考えるべきはかつての教会も既存のビジネスも実現し得ていない市場を芸術の世界に対していかに提供するか、なんだろう。

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