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MBAの誓い

同じくきょうのフィナンシャル・タイムズ紙は、「上位校は景気低迷でも人気(Top schools draw the crowds in a downturn)」という記事で、今年のビジネス・スクールの入学状況を報じていた。上位校は入学辞退者が減ったため合格者に占める入学者の割合(イールド)が増加し、一学年あたりの生徒数が増加、その影響で中位校以下はイールドが低下しているという。一方で、金融危機の犯人としてMBAを挙げる声もあり、それはビジネス・スクール全体にとっては悪材料だ。この社会的批判は、今年のハーヴァード・ビジネス・スクール卒業生有志が作った「MBAの誓い(the MBA Oath)」を自ずと思い起こさせる。

スタンフォード・ビジネス・スクールの入学審査官は、MBAに向けられた昨今の批判も、今年の入学者が受験勉強を始めた頃にはまだ顕在化していなかったため今年の入学者には影響がないだろう、という。一方で彼は、2011年の入学を検討している受験生はその批判を耳にしているだろう、と話す。ビジネス・スクールとその卒業生および在校生は、MBAは果たして社会に有用なのだろうか?という問いに晒されている。

それに対するひとつの回答が「MBAの誓い」だろう。スローン校でも、2年生がテレビ番組「コメディ・セントラル」に出演したこともあって話題になっている。先週2年生と昼食を共にした時も話題になった。対岸の学校――というのがハーヴァード・ビジネス・スクールを指すスローン校生の言い回しだ――のGlobetrotterさんもブログでこの誓いについて紹介している。

The Daily Show With Jon Stewart Mon - Thurs 11p / 10c
MBA Ethics Oath
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Political Humor Healthcare Protests

僕自身は、このような誓いが人間を倫理的に行動させる強制力を持つとまでは思えないけれど――これが大抵の懐疑派の意見だ――、まさにGlobtrotterさんのブログに引用されたエコノミスト誌の記事の通り、マーケティングとしてこの誓いは望ましいと思う。特に日本では「職業としての経営者」という認識が薄く、一方でそのような経営者プールへの潜在的な需要は高いだろう。この時に、MBAをあたかも経営者の資格であるかのように扱い、医師における「ヒポクラテスの誓い」を模倣することは差別化の戦術としてそれなりに合理的に思える。さらに、誓いに署名することで倫理的な行動が促されるなら一石二鳥だ。

このような立場はシニカルに見えるかもしれないけれど、ビジネスは結局のところ「論より証拠」という世界であろうから、誓い自体に過大な期待を寄せても仕方ない。

ブリーリーらの著書「Principles of Corporate Finance」では次のような事例を紹介している。「株主の利益と全ての利害関係者の利益のどちらを優先するか」という問いに対し、英米の経営者の過半数は前者を、日本・ドイツ・フランスの経営者の過半数は後者を優先すると答えている。また、「配当と雇用のどちらを優先するか」という問いについても同様の結果が出ている。しかし著者らは次のように結論づける。

収益力のある企業というものは満足した顧客と忠実な従業員を伴うものだ。 (中略) トヨタの会長は彼らが株主の利益の追求に沿わないかも知れないと示唆していたとしても、一方で、トヨタの株式の市場価値はGMやフォードのそれよりも著しく高い。おそらく、実務上はこれらの目標群(訳注:株主利益と全利害関係者の利益、あるいは、配当と雇用)には大した乖離はないのかも知れない。

価値観の表明に固執すると本質を見失う危険がある。例えば、世界的にはフランスのサルコジ大統領を筆頭に金融機関の経営者のボーナスについて批判的な議論がなされているし、日本でも株主価値と雇用保障があたかも利害相反であるかのような前提で論じられている。けれど、本質的な問いはあくまでも、企業や経営者が社会に対してどれだけの付加価値を与えているかであって、上記のような議論は頭打ちになったパイの奪い合いにしか聞こえない。これは直観的な感覚だけれど、パイの配分でもめている時の本当の問題は、配分方法そのものではなくて成長源の枯渇にあるのではないだろうか。

MBAの誓いは、つまるところ、健全な経営者人材市場のなかで競争していく覚悟の表明に集約されるのではないだろうか。換言すれば、自身を律さなければ市場がそのプレイヤーを排除するまでだ。そのような市場の自律をこそ前提とすれば、個人の自律など当然の帰結に過ぎないはずだ。

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