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理不尽な人たち

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スローン校の必修科目に「組織プロセス論(Organizational Processes、略してOP)」というのがあって、これが面白い。「組織内の政治や文化も、組織戦略と等しく重要である」というのがこの科目の出発点で、組織内の政治や文化といった泥臭いものを扱っていく。確かに僕自身の経験を振り返ってみても、純粋な戦略論だけで人は動いたりしない。とはいえ、そうと分かっていても、戦略を絶対視したい気持ちも否定できない。だって、組織戦略ひとつだって十分過ぎるほど重い課題なのだから、さらに得体の知れない政治だの文化だのは御免蒙りたい。そして、そう思うからこそ、この科目が必修であることに感謝もするのだ。ビジネスマンとしての偏食を、スローン校の給食で否応なく矯正されている気分だ。

キャサリン・ケロッグ(Katherine C. Kellogg)教授のこの授業では企業のみならず様々な事例を扱う。エヴェレストの登山隊の遭難だとか、チャレンジャー号の打ち上げ失敗だとか、題材は尽きない。60年代にイェール大学で行われたミルグラム実験の映像も見る。被験者である一般人が、実験者に言われるまま電圧を上げて隣室の第三者に電気ショックを与えていく、という空恐ろしいものだ。数十ボルトの電圧で「こんなのは嫌ですよ」と言っていた被験者も、「私はもう知りませんよ」と言いながら結局は数百ボルトの最大電圧まで上げてしまう。脅されているわけでもないのに。組織内のバイアスに無自覚でいられなくなる。

チャレンジャー号の事例も、そうとは知らされぬままやったレースのゲームを通じて学ばされる。レースを開催したいというバイアスの下では、気温と不具合のデータが無意識のままどれほど好都合に解釈されることか。このゲームを設計したジョン・キャロル(John S. Carroll)教授は僕たちの校外コンサルティング・プロジェクトの顧問役でもあるのだけれど、彼は組織論を通じたリスク管理の専門家で、日本の原発の安全管理にも関わったという。昨日も「NASAがスペース・シャトルの打ち上げを延期したのでフロリダに行く日が変わりました。打ち合わせは別の日にしましょう。」というメールを送ってきて、ミーハーながらこういうのは実にMIT的で嬉しい。ともあれ、ハードな技術の塊のようなスペース・シャトルですらも、工学だけで飛び立つわけではないのだ。ならば、人間相手の商売ならばなおさらソフトな技術が要ることだろう。

ところで、こういう学びを思い知らせてくれるのは、意外にも校外からの刺激だったりもする。ケネディ校のしゃんさんのブログ「MBAではなくMPAに通う意味」を読んで、課題を狭く設定することの功罪に改めて気づかされる。大きな問題をとりあえず細かくして、解決できるところだけを解決したところで、それは必ずしも”大きな問題”全体を解決したことにはならない。小さな一歩ももちろん喜ぶべきことだけれど、一方で「浅はかなビジネスが、不可逆的な形で、誰かの不幸を招いて」しまうこともあり得る。ビジネスにおいて戦略が問題解決のための道具のひとつでしかないように、ビジネスもまた世界の問題解決のための道具のひとつでしかない。これらの道具の限界に気づかせられる機会はいくらあっても足りない。効用を妄信させるだけの機会もまた、とても多いからだ。

彼女のブログの下記の事例を読んで、合理の限界を思う。この話に出てくる男は明らかに非合理的で非生産的で、それだけでウンザリだ。けれど、彼を石で打てるほど完璧な人間など誰もいない。僕自身もまた誰かをウンザリさせるほど理不尽なのだろうと思うと――これは合理的な推論だろう――、もう、理不尽な僕たち同士でうまいこと折り合いつけて生きていきましょうよ、という半ば爽やかな気分になったりもするのだ。

その昔、ある貧しい国の貧しい村に、一人の女性が住んでいた。
夫は、家族を捨てて、街に出たきり帰ってきていなかった。
彼女は、子供を抱え、仕事もなく、困り果てていた。
そこを訪ねた開発機関の職員に、彼女は機織の仕事をしたい、と訴えた。
心をうたれた職員は、もろもろの調整を進め、織り機の調達を助け、販路を確保し、彼女が機織ビジネスをできるようにした。
彼女は機織を始め、ビジネスは順調に拡大し、近所の女性を雇うまでになった。
数年後、職員がまた村を訪ねてみると、彼女はいなかった。
もう街に出て、別の家族を作っていた前夫が、彼女の村での活躍を聞いて、彼女を殺してしまったのだ。

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