- 2009-11-02 (月) 0:03
- MBA留学記


今週末のフィナンシャル・タイムズ(FT)紙は、日本の地上波放送局の動きを考える上で興味深い記事を載せていた。その記事は「大手ネットワーク局、再送信料の交渉を強化(Big TV networks step up fight for carriage fees)」というもので、FOXやCBSといったネットワーク局が広告収入の落ち込みを補うべく、ケーブル局に対して再送信料の値上げを求めているというものだ。放送広告市場の冷え込みは日本の地上波局も直撃しているから、放送局が広告会社からケーブル局へと「得意先」の重心を移す動きは日本でも十分起こり得るだろう。
もちろん、アメリカ特有の背景もある。日本の地上波に相当するネットワーク局は全米をカヴァーする代わりに、各地域のケーブル局を通じてそれぞれのチャンネルを再送信している。「アメリカの約9割の世帯は有料テレビのプラットフォームを通じてネットワーク局のチャンネルを見ている」と記事も書いている通りだ。一方の日本では地上波局同士がキー局を頂点としつつも水平的に連携して、基本的には全世帯を電波でカヴァーしている。
そこでFOXは同チャンネルの再送信の対価としてケーブル局に1世帯あたり月額1ドルを要求しており、CBSは同50セント超を確保したという。僕のうろ覚えの記憶ではアメリカのケーブル加入世帯数は8,000万程。記事ではモルガン・スタンレーのアナリストがこの再送信収入が年間で5億ドルから10億ドルになると試算しているから、辻褄は合う。
翻って、日本の環境は今後大いに変わり得る。ケーブルの普及世帯数は約2,300万世帯(総務省資料)あって、そのうち約2,250万世帯が地上波デジタルの再送信を受信できる環境にある。地上波放送自体は無料広告放送だとしても、これらの世帯はその地上波を含む放送(あるいは通信の)サーヴィスに月額数千円の対価を支払っている。
フジ・メディア・ホールディングスの4-6月期決算は「ネットタイム、ローカルタイム、スポットすべてが二桁減収」という苦境を伝えており、同社は約130億円の代理店手数料を支払いつつも四半期の純利益は約24億円に留まる。このフジの売り上げの4分の1を占める最大の得意先である電通もの4-6月期純利益も約19億円。一方で、ジュピターテレコムの4-6月期の純利益は約74億円で、フジの3倍超、電通の約4倍。日本のキー局もFOXやCBSのように、ケーブル側からの再送信収入に傾斜する動機はあるだろう。
もちろん、アメリカでも、ワーナーのように傘下のケーブルが強いグループはFT紙の記事でも強硬姿勢を報じられていない。記事によると、かつてネットワーク局はケーブル局に対して、全国枠の広告を売るべく再放送料を”支払って”いたという。この連鎖が年月を経て逆転し、さらに広告市況の悪化がこれを加速したようだ。ここで、垂直統合したワーナーよりもより独立的なFOXが機敏な動きを見せているのが面白い。
地上波は確かに希少ではあるけれど、一方で双方向性や課金機能には弱みがある。地上波デジタル移行の投資はいわば埋没費用と割り切って、流通の土管部分をケーブル網に任せて前を撥ねるも一つの戦略なのではないかとふと思う。地上波放送局がいわば委託放送や役務利用放送のような立場にセットバックするのも、経営資源を放送部分から製作や編成の部分に集中させる意味ではひとつの前進なんじゃないだろうか。
電波の優位はかつてほど自明ではなくなっているだろう。池田信夫氏が「幻影肢シンドローム」という興味深い表現を使っているように、「かつての優位」に縛られた議論では「今後の優位」という重要な論点をボカしてしまう恐れがある。このような文脈では、テレビ東京あたりが――赤字という危機感も手伝って――却って身軽な動きが取れそうに見えるのだけれど、どうだろうか。
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