- 2009-11-14 (土) 3:42
- MBA留学記

ようやくロンドン行きのチケットも手配して、サンクス・ギヴィングをロンドンで過ごすことになった。といっても、これはファイナンス専攻の一環としてシティの投資銀行幹部から「信用収縮後の金融セクター」とか「今後18ヶ月の優先課題」などといった話を聞くためのものだ。けれども、僕の楽しみは前にも書いたテート・モダンの展覧会「良きビジネスは最高の芸術(Good Business is the Best Art)」にもある。ちょうどある雑誌で関連する記事を読んだりして、あらためてウォーホルのビジネスに対する態度にひとつの粋を感じた。彼がアトリエに「ファクトリー」を見出したように、僕もまたオフィスに「アトリエ」を見出してみたい。
ウォーホルの出したインタヴュー誌に編集者そしてライターとして関わったグレン・オブライエン(Glenn rien)が、アメックスの会報誌に「アンディは生きている!(Andy Lives!)」と題した記事を書いていた。トルーマン・カポーティが亡くなった時にゴア・ヴィダルは「いい転職だね(a good career move)」と言ったそうだけれども、筆者はウォーホルについてもそれが言えるのではないか、と言う。ウォーホルは今なお影響力を保っているからだ。
テート・モダンの展覧会のテーマは「ウォーホルの最もラディカルな教訓は、周到な戦略として広報機関や市場に進出した、後続世代の芸術家の作品に反映されている」というものだ、と論じた上でオブライエンは、キース・へリングやジェフ・クーンズ、そして村上隆の名を挙げる。彼らはウォーホルの戦術を吸収して80年代から90年代に美術界のスターになったと言う。僕が村上作品を初めて意識して見たのは90年代半ば、表参道にある路地裏の小さなギャラリー「ナディッフ」でだった。ところが数年のうちに、彼の作品は表通りのルイ・ヴィトンや六本木ヒルズやらを飾るようになる。僕はそこに作家の戦略をこそ感じはしたものの、ウォーホルの残影には気づかなかった。
記事はウォーホルが1975年に書いた次のような文章を引用する。
ヒッピーの時代、人々はビジネスの考え方を否定した。彼らは「お金は悪いものだ」、「働くことは悪いことだ」と言ったものだ。しかし、お金儲けはアート、働くことはアート、良きビジネスは最高のアートだ。(拙訳)
Andy WarholThe Philosophy of Andy Warhol (From A to B and Back Again)
筆者は、このように言うことが当時は挑発的であったとも指摘する。確かに、ウォーホルはヒッピー文化の文脈を踏まえてこの立ち位置を取ったのだろう。だから、現時点ではむしろビジネスを否定する方がクールになるかも知れない。一方で、ウォーホルがキャンベル缶のスープで注意を喚起した大量生産の社会構造はもはや僕らにとって自明だ。そう考えると、後続世代がビジネスより巧みにういうマウンティング・ポジションを取ることのほうが、ヒッピー的反抗よりもずっとクールに思える。
ともあれ、ウォーホルのクールさの一つは、今日の村上隆ほどの鮮やかさ(あざとさ?)ではないにせよ、ビジネスに対して上位に立ちながらこれを使った点だろう。もちろん、僕は全ての芸術がそうであれば良いとは思わないし、もしろそうであったら全くツマラナイと思う。ただ、企業活動と日常生活が不可分であることを前提とした上で、ビジネスというプラットフォームを使いながら、時に陽気で時にシニカルなメッセージを発信するウォーホルや彼の後続世代の芸術家には刺激を受ける。
ウォーホルは彼のアトリエ「ファクトリー」について次のように言ったそうだ。
ファクトリーのみんなが僕の周りをウロウロしている、と人々は考えていた。けれど、それは完全に逆だった。みんなの周りをウロウロしていたのは僕の方だったんだ。僕は家賃を払っていただけなんだ。
こうやってジャン=ミシェル・バスキアをはじめとする若い才能を引きつけながら、彼らに活動の場を提供し、そしてその場を維持していけるだけの――あるいはそれ以上の――経済的な収入を得ていく。これって、ビジネスマンとして一つの理想だと思う。記事によると、村上やクーンズ、そしてダミアン・ハーストらはウォーホル以上の従業員を抱え、嫉妬深いウォーホルは悔しがるだろうという。けれど、「ファクトリー」やその後継をを思ってさらに悔しい気分になる経営者も少なくないだろう。
企業がどうやって創造的な人材を獲得して維持していくか、もはや対岸の火事ではないだろう。そういう環境整備と経済的成功という点で、ウォーホルは理想のビジネスマンだなぁと思う。
出典: The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts
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