- 2009-12-02 (水) 21:24
- MBA留学記


11月28日、金融機関の視察のため訪れたロンドンで、前から行きたいと思っていたテート・モダン(Tate Modern)の「ポップ・ライフ:物質社会のなかの芸術(Pop Life: Art in a Material World)」展を観に行く。最初の展示室ではアンディ・ウォーホルのセルフ・ポートレイトとジェフ・クーンズのウサギ、そして村上隆の母乳フィギュアが来場者を出迎える。そして最後の展示室で人だかりをつくっていたのは、村上隆がプロデュースしてMcGが撮影したキルスティン・ダンスト出演の「秋葉原魔女っ子プリンセス」だった。女王のお膝元で、欧米と日本の「ポップ」の違いを考える。

今回の展覧会で特に感じたのは、ウォーホルやクーンズの「ポップ」に潜む攻撃性だった。例えば、美術館の一画は「18歳未満立ち入り禁止」と書かれた扉と係員に閉ざされていて、扉を開けるとそこにはクーンズの「メイド・イン・ヘヴン(Made in Haeven)」が展示されていた。ガラスのディルドーや、愛し合うクーンズとチチョリーナ(の一部拡大)写真が視界に飛び込む。画面だけ見ればアートというよりポルノだし、エッチというよりはセックスだし、ポップというよりはパンクだ。
続く展示室では、ギャヴィン・タークによるセックス・ピストルズのシド・ヴィシャス像が銃を構える。ウォーホルの「エルヴィス・プレスリー」へのオマージュとなったこの作品は、文句なくセックスとパンクを孕む。そして、ピストル――あるいは攻撃性。キース・へリングの「ポップ・ショップ」を再現した展示室兼売店は、床も壁も天井も彼のグラフィティ風の線が渦を巻いていて眩暈を覚える。圧倒的なパワーを感じるけれども、同時に、あまり長居をするとちょっと疲れてしまう。
そこへきて最後に僕は、キルスティン・ダンストが魔法の杖を振りかざしながら秋葉原で踊る映像に辿りつく。あるいは、魔法少女のコスプレをしたAKB48や、アニメのキャラクターを車体に描いた車の写真に。ここにある種の安堵や無垢な高揚を感じたのは僕だけではないらしく、モニターの前では小さな子どもがポップな(ロックではない)音楽に合わせて踊っていた。
ミニ・スカートやガーター・ベルトはエッチかもしれないけど、ディルドーと比べたらセックスの匂いは微かにニュアンスを残すまでだ。ダンストはギターではなくシンセサイザーの奏でる軽快なポップ・ミュージックに合わせてステップを踏んで、手に持っているのはもちろん銃なんかじゃなくて魔法の杖だ。杖の先からは絶え間なく星がこぼれ落ちる。
この甘さってなんなんだろうか。ウォーホルから続く系譜で見ればやっぱり村上も、セックス(射精フィギュア)や凶暴性(DOB君の牙)を扱い、社会を覆う商業化の波に乗ることでその「波」を描く。それでも、作品が与える印象は挑戦というよりは饗応に近い。そのパーティはあどけない無邪気さを漂わせる。
もちろん時代の変遷もあって、ポップとハイ・アートの対立軸が薄れていることもあるだろう。例えば、ここイギリスのダミアン・ハーストの洒落た作品にも、そういう対立を消化した後のデザインとアートの近接を感じる。けれども、村上作品にはそういう対立を経ぬまま一足飛びに、ブランド崇拝とアイドル偏愛とエロ漫画とコンビニとを飲み込んでしまったような奇妙な日常感覚がある。
そんな印象が腑に落ちたのは、テート・モダンを出てすぐだった。夜の街に浮かび上がった聖ポール大聖堂に向かって歩いていて、例えばこの街におけるハイ・カルチャーとポップ・カルチャーの歴然とした差を思わされる。それは東京ではさほど感じないものだ。


東京の地下鉄に中吊りに漫画雑誌の広告があればそれは大抵はセクシーな水着を来た三次元の女の子の写真か、それ以上に巨乳な二次元の女の子の絵だ。その中吊りの下の乗客がルイ・ヴィトンかプラダの財布を持っている確率は、間違いなく原産地のパリやミラノ以上だろう。それでいて僕らは、コンビニでスナックなんかを買い込んだあとに、大河ドラマで奥ゆかしい日本の情緒に触れて感動したりするんだ。
けれど、そう考えてみると、新しい着想も湧く。いくらでもありそうな対立軸にお構いなく様々なスタイルを並存させてしまうほうが、個別の軸に焦点を当てて「戦う」よりも実は、よほど暴力的な気もしてくる。
個々のアイテムが内包するマクロな教条からは巧みに身をかわして――あるいはダシを取る程度にして――、ほとんどアナーキズムにまで昇華された多神教のちゃんこ鍋に次々と放り込んで嚥下してしまう。これが「いいとこどり」の甘美なスタイルと、その背景にある日本のポップ・カルチャーの空恐ろしいほどの物欲と肉欲なんじゃないだろうか。そう考えて村上の「シンプル・シングス」を思うと、この黒い怪物は日本の自画像のように見えてくる。キラキラと輝いて耳目を集めるのは、もちろん、とびきりポップなプロダクトたちのほうなんだけれど。

出典: arrestedmotion.com
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