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弁護士天国はあるのか? – 競争から公正価格を推定する

一見無関係な様々な話がつながって見える時がある。昨日、僕は同級生とともにブルームバーグの取材を受けて、金融危機後にビジネス・スクールの学生が投資銀行をどのように見ているか、について様々な角度から質問を受けた。次いで今日の昼はアーンスト・アンド・ヤングから講師が来て、PEファームが投資先企業の債務を整理する際の論点を学んだ。そして、組織論の授業でジャック・ウェルチのGEでの20年間を議論して帰宅すると、コムキャストがGEからNBCユニバーサルの経営権を獲得するに際して78人もの弁護士が関与した、との記事が届く。一言でいうと、世の中は複雑だなぁ、の感想に尽きる。次のステップは、その複雑さの最中でいかに「分かりやすさ」や「納得感」を保つのか、ということになるだろう。

ブルームバーグの取材は1時間半ほどにも及んだけれど、ランチを兼ねたカジュアルなものだった。そこで僕は、投資銀行の業務や構造が一般に知られていないことが、同産業への過剰な批判の背景にあるのではないか、という印象を話した。僕自身も目下勉強中だけれど、例えば(狭義の)投資銀行部門とトレーディング部門といった区分やそれぞれが資本市場で果たす機能がメディアで十分に報じられている印象はない。よく分からないものに対しては自ずと猜疑的にもなる。もちろん、適切な批判も多くなされているとは思うけれど、それは記事が出たときにでも。

同様のことは、本日付のウォール・ストリート・ジャーナルのブログ「ディール・ジャーナル」の記事「NBC買収は弁護士天国(The NBC Universal Deal Is a Lawyers Paradise)」にも言えるかも知れない。同記事は、買収側のコムキャストの法務助言者となった法律事務所デイヴィス・ポーク・アンド・ウォードウェルが、法務アシスタントや弁護士登録されていない者を含む38人もを助言業務に関与させたことを批判的に書いている。

心情的には、この記事の論調は分からなくもない。僕が数年前にある企業の売却に関与した時、売却側の法律事務所と買収側の法律事務所が契約を巡って何やら交渉して、その頭数かける時間を双方の当事者が払う手数料構造にはあまり愉快な印象を持たなかった。けれども、結局のところ彼らには彼らのプロフェッショナリズムがあって、業界間の談合にも見えなくもないその交渉も、顧客企業の為であったと仮定するほうが議論の出発点としては健全だろう。

例えば、ディーロジックによればコムキャストの財務助言はモルガン・スタンレー、UBS、そしてBOAメリル・リンチの3社が務めているので、部外者から見れば財務側も財務側で「寄ってたかって」でどっちもどっちに見えるかもしれない。ただ、記事の筆者は恐らく、M&A助言の複雑性や指名獲得のための投資銀行間の熾烈な競争を踏まえて、「NBC買収は投資銀行家天国」という記事を書かなかっただけなのではないだろうか。

サンドウィッチを頬張りながら財務上の困難に陥った投資先企業の債務を整理する際の会計上の論点を聞いて、前日の会計の授業を思い起こしながら僕は、「なるほど、こういう時は会計事務所にお金を払って対応してもらった方がいいな」と思った。なぜか。講師が指摘している問題は自分では対処できない、とよく分かったからだ。つまるところ、餅は餅屋、という大して目新しくもない結論に至る。

問題は、法律事務所なり投資銀行なり会計事務所なりが提供するサーヴィスが、僕の父親の好物である餅ほど分かりやすくないことだ。むしろ、分かりにくいからこれらの専門家を雇う、と言ったところだろう。これらの専門家が、「分かりにくさ」あるいは情報の非対称性をダシに儲けているのではないか、という疑念はよほど的確な成功報酬の仕組みを組まなければ消えないだろう。

かといって、顧客企業が専門家と同等の知識や情報を持とうとするのは効率的ではない。その知的資産を必要とする取引が生じる頻度があまりに低いからだ。そうなると、何が顧客主義のプロフェッショナリズムを担保するのか。これは、業界内の競争によるのが一番道理に適っているんじゃないだろうか。サーヴィスが高品質で値頃だから競争に勝つという演繹より、競争に勝っているからそのサーヴィスを高品質で値頃と看做すという帰納こそが、しっくりくる気がする。

前職で公正市場価格(Fair Market Value, FMV)の議論をしていつも面白いと思ったのは、これは実務上は「市場で価格がついていればそれを公正なものと扱いましょう」という解釈のされ方をすることだ(僕の解釈が間違っていたらご指摘ください)。「公正」は「市場」を形容しているようにも「価格」を形容しているようにも見えるけれど、市場か価格のどちらかが公正ならもう片方も自ずと公正と看做せるということか、と僕はひとりで面白がっていた。

デイヴィスがコムキャストをカモにしているというような早計は、その背後にある市場原理あるいはコムキャスト側の交渉力を過小評価している。いまトムソン・ロイターで見た法務助言のランキング――リーグ・テーブル――からは、2ダースもの法律事務所がしのぎを削っている様子が垣間見える。デイヴィスの助言に問題があれば、代わりを喜んで務める法律事務所は幾らでもあるということだ。

この市場を公正と看做せば、38人分の弁護士手数料だって構わないじゃないか。議論はむしろ、市場の公正さにこそ向けられるべきだ。ミクロ経済学の教える通り、もしM&Aの法務助言に「弁護士天国」があるのならば、五万とある法律事務所がその天国が天国でなくなるまで参入してくるだけだ。僕が会った投資銀行の若手も、地獄を仄めかす人は何人かいたけれど、天国だという話は聞いたことがない。

ところで、あるコンサルティング会社は、社内の人材育成のため、若手コンサルタントを請求上の頭数に入れないままプロジェクトに参加させると話していた。デイヴィス・ポーク・アンド・ウォードウェルの38人にも、そのような例がありうることも考えたほうが妥当かもしれない。

ディール・ジャーナルの記事は辛辣さが面白いので、僕はなんだか教科書的で萎える話を書いてしまった気がするけれど、つい話に釣り合いを取りたくなってしまうのだ。もし議論を一歩進めるならば、そもそも頭数や時間数がプロフェッショナル・サーヴィスの対価として妥当か、という論点は以前から気になっているのだけれど、それはまた別の機会に。

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