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ヨックモックとシルバニア・ファミリー

2年生のJさんにヨック・モックのシガールをいただく。僕はこれが小さな頃からの大好物で、親の仕事関係でそれを知る心優しい方々から、毎年お歳暮やらお中元の季節には大量のシガールが実家に送られてきたものだ。大人になってツケが回り(笑)このお菓子を贈る機会は増えたけれど――そしてウェストのリーフ・パイの方が高いと知ってミスプライスに憤慨する――、今回は久しぶりに頂戴した。そして、このお菓子のクオリティの高さをあらためて感じる。スウェーデン語の名前を持つ日本の会社がつくるフランス語のこのお菓子、アメリカで食べてその出来を再確認する。外国への憧憬が高じて世界レベルになってしまうコンテンツ、として「シルバニア・ファミリー」のことを連想する。(と、この段落を書く間に7本食べる。)

公平を期すために白状すると、僕はアメリカのお菓子も好きだ。確か中学生のころ、ソニー・プラザで見つけたハーシーのミント味のチョコレートは衝撃だった。そのアップビートなアイドル感。降伏してから進駐軍にチョコレートをもらう、というのが歴史的な手順なのに、僕はチョコレートを買って降伏する。トブラローヌ(数年前まで読めなかった)のようなオシャレ感もなく――そりゃオシャレだよ、三角だし読めないし――「チョコもミントも好きだから一緒にモリモリ食べます」みたいな、そういう愚直さがある。

僕はピーナッツ・バターが好きなので、リースのピーナッツ・バター・カップも好きだ。チョコの中にピーナツ・バターをそのまま詰めるなんて荒業は僕には思いつかなかったし、ジャン・ポール・エヴァン氏のイデオロギー上の論敵は絶対にリースだろうと思う。ここに技術革新を加え、ピーナッツ・バターをクリスピーに固めたネスレのバター・フィンガーは画期的で、昨日も小さいのを5個ほど食べた。

イノヴェーションと言えば、酸っぱい粉がついたサワー・スキットルズは無限にいける。スターバーストも無限アイテムなので、両方あるときは仕方なく、スキットルズを無限÷2、スターバーストを無限÷2、ずつ食べることにしている。この計算の結果、カリフォルニアを走る車中でこれらを食べ過ぎて、新婚旅行中なのに妻にたしなめられた。もう、僕はどんだけ頭の悪い子なのかと。

誤解を恐れずに言えば、コンビニで売っているようなお菓子でも、日本のものには知性がある。小枝なんて全てが詩的だし、紗々は「いとあはれなり」を目と舌で感じさせてくれる。キノコの山にはクラフトマンシップがある。おそらく和菓子の世界に端を発する日本のこの繊細さと工芸美とを、名前だけ見れば無国籍なヨックモックのシガールにもしかし、ちゃんと着陸させているのは立派だと思う。

世界的に有名なバター系焼き菓子というとウォーカーズやデストルーパーのクッキーが浮かぶけれども、ヨックモックの品質はウォーカーズを超えている。デストルーパーとはポジション的に比肩するものがあると思う。

ウォーカーズのショートブレッドは細やかでうまいのに、チョコレート・クッキー――「ビスケット」と呼ぶべきか?(以前の記事「バベルの塔の破片の破片 – コクニー、クッキー、ビスケット。」)――のつくりは雑だった。以前、職場でアシスタントの方が配ってくれた時、そのクッキーの「どうってことなさ」に独り気まずくなった。それは僕のロンドン出張土産だったからだ。一方でヨックモックのビエは、チョコレートの食感がクッキーに合わせて調整されているのを感じるし、ビエ・オ・ザマンドのアーモンドはいつも几帳面に添えられている。

味はもっと主観的な話だとしても、シガールの柔らかなバターと軽やかな触感は、デストルーパーの脂っぽさとクリスピーさに対して好対照を為すと思う。身贔屓かも知れないけれどヨックモックは、アメリカなんかじゃなくてデストルーパーお膝元のベルギーあたりで高い評価が得られるのではと期待。逆に、アンリ・シャルパンティエはフレンチを狙いすぎて大陸ヨーロッパでは却って存在感が薄くなるかも。旨いのになぁ、と勝手に残念がる。この議論は徹頭徹尾、そもそも勝手な話なのだけれど。

ともあれそう思うと、ヨーロッパへの憧れと模倣を剥き出しにしたまま、その世界観と品質のためにイギリス市場で人気を博している日本のおもちゃ「シルバニア・ファミリー」の凄さが際立ってくる。先日のロンドンでは中の売場まで立ち寄らなかったけれど、きっと、リージェント・ストリート沿いの玩具専門店ハムリーズのでは、プレゼントをねだる子どもたちがシルバニアの売場を埋めていることだろう。子どもの方がむしろ文化的なニュアンスの差異には敏感だから――ゆえに日本の子どもは「セサミ・ストリート」よりも「おかあさんといっしょ」が好きなのだろう――、シルバニアは快挙だと思う。

1年半前に「ソフト・パワーとその波及効果モデル」で、フランスで放送されていた日本アニメーション社の作品のことを書いた。その名も「アルプス物語」。ハリウッドが「金太郎」を撮るくらい違和感があってもおかしくないのに、同社のヨーロッパネタ作品は当地でポピュラーだ。このアニメとシルバニア・ファミリーに共通しているのは、ヨーロッパをテーマにしながら、高品質の成型や表面処理あるいはセル・アニメの表現力という日本の競争優位を梃子にして、本国に成功裏に上陸したことだ。そしてそのいずれにも、模倣を超えた品質がある。

ロンドンでシルバニア・ファミリーを見て、あるいは、パリで「アルプス物語」を観てそれらの輸出競争力を追認するのと同様に、ボストンでシガールを食べてその底力を感じる。いや、もうヨーロッパではヨックモックがバカ売れなのかも知れないけれど。もしそうでなかったら、ぜひ頑張って欲しいなぁ。と、気づけば早々とアメリカを除外している僕。これはアメリカの食市場に対して「お前にはうちの娘はやれん」という心境なのだけれど、まぁ、スターバーストの包み紙を延々と剥いてる僕が言うな、という話ですね。

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