- 2009-12-20 (日) 22:17
- MBA留学記


12月19日発売のエコノミスト誌に「機能するネズミ講(A Ponzi scheme that works)」という記事が載っていて、これがなかなか面白かった。ネズミ講と言ってもメイドフの詐欺についてではなく、「人々がそこに住みたがるのがアメリカ最大の強み」という副題の通り、アメリカへの移民がいかに同国の強みになっているか、についての記事だった。アメリカという国は完璧からはとても程遠いにしても、それでも、抗いがたい魅力を放っている。
記事中に引用された定量的な証左が興味深い。例えば、ハーヴァード・ロー・スクールのヴィヴィック・ワドハ教授によると、1995年から2005年に設立された工学・技術系の起業の4分の1は移民の創業者を含み、アメリカから出願された国際特許の4分の1は外国籍の者の成果であるという。移民の子どもを含まないでこれだけの割合。移民の子どもという点では、アマゾン・ドット・コムの創業者は、高校も卒業せずキューバから15歳で移民した人の継息子らしい。ちなみにアマゾンの時価総額は約5兆円。
記事は、「経済成長は生産性に依存する。そして、最も生産性の高い人々は往々にして最も移住しやすい人々だ」という。金融危機後は留学生の就職も厳しくなったと聞くけれど、それでも、留学生の同級生に「卒業後はどうするの?」と訪ねると、かなりの確率で「少なくとも数年アメリカで働いてみる」なんて答えが返ってくる。その彼あるいは彼女が実際に働き口を得られるかはさておき、一応は分別ある大人がこう思えるアメリカってすごい。
ビジネス・スクール自体からして、いわば「予言の自己成就」としてアメリカのネズミ講の一端を担っている。スローン校の学生の3人に1人は外国籍で、残る3人に2人のアメリカ国民/永住権者うち、白人は55%。結果として白人のアメリカ人が占める割合はおよそ3分の1で、数は留学生と同程度になる。議論を通じてお互いに学ぶ授業のスタイルを考えると、なおさら、アメリカという巨大な求心力の辺縁で生じる相互作用を思わずにはおれない。
記事で紹介された調査によると、「アメリカ社会の一員になったと感じるまでどれくらいかかったか」という質問に対して、移民の77%が「5年以内」と答え、「馴染んだと感じたことがない」と答えた移民は5%に留まったという。もちろん、これはアメリカが「社会の一員」に要求する同化の水準が恐ろしく低いからこその結果だろう。そしてこの要求水準の低さは、たかだか5年で「社会の一員になったと思う」と宣言しちゃう移民が8割もいることによって加速されていると思う。
数日前に僕は、遅れ馳せながらマサチューセッツ州の運転免許を取るための筆記試験を受けた。必要な書類はパスポートと社会保障番号、そして現住所宛の郵便物。たったこれだけの書類と、呆れるほど基礎的な運転の知識で州の住民として運転免許が手に入る。国籍や市民権とは別に、この土地で不自由なく生活するためのハードルがとにかく低い。もちろん、就労には新たなハードルがあるわけだけれど、それでも前述の通りアメリカで働くことへの合理的な期待値は高い。
記事は、国ごとの人材獲得能力を指数化した「国際クリエイティヴィティ指標(Global Creativity Index)」でアメリカが4位にあるのは、同指標がアメリカで根強い信仰や愛国心を誤ってネガティヴに評価しているからだ、と言う。確かに平均的なアメリカ人は、同指標で2位の日本よりも信仰と愛国心に篤いけれど、それらが外国人の移民を大きく阻害しているようには僕も思えない。アメリカの愛国心は、誰もがアメリカ人になり得る、と多くの人々が考える「包含的愛国主義」だ、という記事の指摘は秀逸だ。
「誰もが日本人になれる、と日本で考える人は皆無だろう。にも関わらず(国際クリエイティヴィティ指標では)日本はアメリカより『より寛容』だと評価されている。馬鹿げている。」と記事。日本で「日本人」と呼ぶ時、それは日本の現住人を指すのみで、あるべき「日本市民像」という観念は含んでいないように僕も思う。司馬遼太郎は「アメリカ素描」で、元来の住民が自然発生的に形成するnationと、原初から設計されるstateの違いを書いていた。アメリカはまさに後者で、のみならず、アメリカのみが後者に該当するだろう。
河野太郎氏が講演で言及していた日本の移民政策についても、実はその前提として「日本人とは誰のことか」というメタな議論があって然るべきだろう。アメリカは、「アメリカ人」が指す面々を変えながらも世界の超大国であり続け、さらに困ったことには、世界の人材を引きつけてやまない。この国に学べることは多い。
(c) AP
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